歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



これは写実性を重視した網(メッシュ地)のかつら。歌舞伎ではあまり使用されないが、舞踊などで用いられる

かつら合わせから整髪までが「かつら」の仕事

 どんなに美しい衣裳をまとっても、これがなくちゃ舞台は始まらない。それが〈かつら〉。
 東京・人形町にある東京演劇かつら(株)は、現在、歌舞伎の舞台で使用されているかつらのほぼすべて―90%近くを受け持つというかつら製作会社だ。

 「歌舞伎のかつらは、大きく二種類の仕事に分かれます。演目と配役が決まると、役者さんのところに行き、頭の形をとって(かつら合わせ)地金(台金)を作り、それをベースに羽二重(はぶたえ)を貼りこんで、全体に蓑(みの)を縫い付けて、かつらそのものを製作するのが我々かつら屋の仕事。そのかつらを結い上げ、公演中、役者さんへの掛けはずしや保管・手入れを行うのが床山さんの仕事になります」と、川口清次社長(48歳)。

 コンクリート打ちっぱなしの応接室、大きく切り取られた窓……。デザイン性に富んだ洒落たビルの外観からは、そこにかつら製作の最前線があることなど誰も想像がつかない。しかし、社長の導きでドアをくぐると、目に飛び込んできたのは種類別に整理されたかつらの山、山、山! 6階建てのビルの1階と4階が使用済みかつらの倉庫に充てられ、1階は名題下の役を中心に、4階は名題のかつらが各部屋名別に分けられ一時保管されている。そして、歌舞伎のかつら製作が行われているという3階へ。その畳敷きのワンフロアに、製作の全過程があった。

かつらだけでなく、ひげ(写真上)や眉などを作るのもかつら屋の仕事。(写真中)〈甲羅〉と呼ばれる月代(さかやき)部分のかつら。右上は切られ与三のもの。左下はなんと、熊の毛を皮ごと使用している。(写真下)倉庫には役柄、俳優ごとに大量のかつらが保管されている