歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



代々の俳優と床山が工夫を重ね淘汰された髪型

 「一言でいうなら、歌舞伎の役に合う髪型を作る。それが床山の仕事です」と、穏やかな笑顔で語ってくださったのは、東京・人形町にある鴨治床山㈱の鴨治歳一会長(70歳)。

 歌舞伎のかつらができるまでには、大きく二つの工程があるが、その一つ目が、前回このコーナーで紹介した〈役者の頭の形を銅版でかたどり、植毛してベースを作る〉というかつら製作会社の仕事。そして、そのかつらを元に、役に合わせて髪を結い上げ、実際に劇場で役者にかける。その作業を担当するのが、床山と呼ばれる人々なのだ。

 「結い上げるといっても、なにもかも同じ形にすればいいというものじゃないんですね(笑)。例えば、『助六』に登場する傾城の揚巻と白玉。同じ傾城でも、揚巻は大きめに、白玉は少し遠慮している。歌舞伎の髪型には、代々の俳優と床山の先輩たちが工夫を重ね、淘汰された形があります。私たちはそれを大切にしながら、最も芝居に合った髪型に結い上げなければいけないんです」


 そして欠かせないのが、役者の存在だ。同じ役であっても、演じる俳優が異なれば、髪型も微妙に変化する。

 「役者さんの体型、顔立ち、衣裳はもちろん、共演者とのバランスや舞台の広さもとても重要ですね。歌舞伎というのは、生の舞台を客席から観るのが根本。その視点で舞台全体をながめながら、演技に合ったかつらを結い上げ、みなさんに気持ちよく舞台に出ていただく。それが床山の仕事なんです」

(左)かつら製作会社から届いた結い上げ前のかつら。出前の岡持ちのような専用の箱に入れて運ばれる。(中)鴨治会長愛用の道具類。用途に応じて何種類もの櫛を使い分ける。(右)人形町の仕事場で女五右衛門のかつらを仕上げる鴨治会長