歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



道具作りの使命は〈軽くて、丈夫、本物らしく〉

 江戸時代の人々が日常的に使っていた〈本物〉と、21世紀の現代に新たに製作するもの。当時とは、製作環境も素材も異なるが、舞台に上がったときには観客の目に違和感なく映らねばならない。それを可能にするのが、工作部の技だ。

 「例えば、『関の扉』に登場するまさかり。昔は、全部を桐で作っていたけれど、今は先の部分だけが桐で、中は発泡スチロール。でも見た目には、わからないでしょう(笑)? そこが知恵。昔と同じ素材を手に入れるのは難しいけれど、逆に流用できる新素材もたくさんある。道具作りの一番の使命は〈軽くて、丈夫、本物らしく〉ですから」と、工作部の主・竹内和男さん(75歳)。

 浅草で生まれ、西日暮里の建具屋に奉公に出た竹内さんが、小道具製作の現場に飛び込んだのは26歳のとき。以来、大名駕籠、牛車、長持、文机、行灯、武具、煙草盆類などを数々作り続け、その技術力によって黄綬褒章、都知事賞など多数の賞を受けた。

 「素材が変わって、やり方も変わったけど、役の人が使ってくれるのが嬉しいよね。昔、猿之助さんが歌舞伎座で宙乗りで使う仕掛けのあるつづらを夜明かしして作ったことがあるんだけど、それはもうお客さんが大喜び(笑)。〈よくできてる〉って感じてもらえれば、それが一番だよ」

取材協力 藤浪小道具(株)
取材・文 寺田薫、写真 山本大樹、構成 栄木恵子(編集部)


工作部の竹内さんが今作っているのは『風林火山‐晴信燃ゆ‐』で使われる陣将棋(じんしょうぎ)。俳優さんによって高さが異なるので、これも手作り


(1)金具に装飾を施しているように見えるが、実は樹脂。刀の鍔の「金具」を作成中 (2)菅笠(すげがさ)などに付ける綿の入った「あて」を作成中。小道具に付随する縫い物は縫製部が担当している (3)『積恋雪関扉 (つもるこいゆきのせきのと)』のまさかりに色をつける職人さん (4)修復するため、古い表面をはがしている最中の巨大な毛抜き (5)塗装部では、上演中出番待ちで俳優が座る「あいびき」という、いわば「休み椅子」に塗装を施していた。装飾的なくり貫きは、女方俳優が好むというひょうたん