歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



奈落の底にあった職人の技

創建当時の瓦が再利用されている様子

舞台上部の梁(牛丸太)

無双窓と檜の風呂

奈落の土間

 江戸時代に建てられ、当時の素材を活かしながら昭和47年に移築復原した旧金毘羅大芝居(金丸座)をたずねました。4月の歌舞伎上演や行事のある時期にはかなりの賑わいをみせるようですが、訪れた2月末の平日の金丸座は、落ち着いた雰囲気の中にありました。琴平町の観光商工課の方に、伝統芸能を守り、維持することの苦労や楽しみなどを伺いながら、ものづくりの観点から注目したのは木材、瓦、土といった素材でした。

 移築の際に、創建当時に使用されていた瓦を再利用している様子を見た後、中に入ってまず圧倒されたのが、舞台上部にかかる松の梁です。牛丸太と呼ばれ、直径2mと伺いましたが、江戸時代から今もかわらないその存在感は劇場全体の要となっているような気がしました。また、2枚重ねた竪(たて)板をずらすことで開閉する無双窓などは現代のガラス窓からは感じることのできない雰囲気をかもし出していました。このほかにも土壁や漆喰仕上げの素材などに興味を持ちながら、最も注目したのが、文字通り奈落の底に施工されていた土間仕上げです。廻り舞台を人力で廻すとき、踏ん張るための滑り止めの石を埋め込まれた土間は、たたき(三和土)と呼ばれる工法で作られたもので、長年使われて磨り減っていましたがその堅牢さは土間職人の施工技術の高さを感じることができました。決してお客様から見えることのない、しかも舞台を支える裏方さん達が使いやすいような素材とその施工技術が、長い間この芝居小屋を支えてきたことに、ものづくりに携わるものとして感動し、施工した土間職人に改めて敬意を払わずにいられませんでした。

 木材と土は人類が使う最も古い素材であることは言うまでもないことで、それらを使いこなす技術は代々受け継がれていくべきものと考えています。INAXライブミュージアムにも、土をテーマにした「土・どろんこ館」があります。館では、「光るどろだんごづくり教室」という体験型の教室を開催し、2006年のオープン以来7万人を超える方々に参加いただいています。普段デジタルのゲーム機で遊んでいる子供たちが夢中になって土に触れている様子に、人類の持つ本来のものづくりの原点を感じると共に、土を使う文化を次世代に受け継いでいきたいと切に思っています。

INAXミュージアム推進グループ グループリーダー
後藤泰男

平成 劇場獨案内

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