歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



本島 ― 町並みにものづくりの精神が宿る

金刀比羅宮は海の守り神。海路からの参詣客には、城下町で知られる丸亀が玄関口になりました。その丸亀の港からフェリーで約35分。塩飽諸島の中心となる島、本島に到着します。

この島は、古くから海運・廻船業で知られた塩飽水軍の本拠地でした。島人たちは、船大工の技術を活かした塩飽大工として中国地方を中心に活躍。島の建物、特に島東部の笠島地区には、今も当時の匠たちによるさまざまな工夫が施された町並みが残っています。

屋根瓦
屋根瓦
石垣
石垣
焼き板
焼き板
虫籠窓
虫籠窓

白のコントラストが鮮やかなナマコ壁は、独特の雰囲気と美しさを醸し出しており、漆喰をかまぼこのように盛り上げる土蔵の壁の装飾で、極めて精緻な仕上がり。卓越した左官技術が遺憾なく発揮されています。元々は、防湿、防火、防虫を目的に造られており機能を生かす上での装飾に、日本人の美意識が垣間見られます。

ナマコ壁
ナマコ壁

坂道に沿う建物の基礎部分の石垣には、大きな石で隙間をつくらずに強固に積み上げていく、“矢来”というたいへん高度な技術を要する組み方が採用されています。建物の上階に設けられた虫籠窓も、家々によって微妙に形状が異なり、大工たちの並々ならぬこだわりが伝わってきます。

これらは、塩飽の船持衆が富と誇りを競い合うことによって生まれた、当時の大工たちの優れた技の結晶。日本人のものづくりの精神が、今も美しい町並みに宿っています。

文・大川哲平、撮影・内藤サトル