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新作歌舞伎『あらしのよるに』、原作者が語るその魅力
9月3日(木)より始まっている、京都四條南座の新作歌舞伎『あらしのよるに』の原作者、きむらゆういち氏が舞台の魅力を子どもたちに向けて語りました。
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絵本「あらしのよるに」の出版元である講談社の企画で、親子ペア観劇ご招待に当選された3組の親子の皆さんを前に、原作者のきむらさんが、新作歌舞伎『あらしのよるに』について話しました。きむらさんは終始にこやかな笑顔で優しく語りかけ、緊張していたお子さんたちもすぐに話に引き込まれていきます。
歌舞伎ってすごいね!
「実は3回観たんですが、面白かったですね」と切り出したきむらさん。「初めは、ええ?って思ったことも、見ているうちにだんだん当たり前に見える、不思議な世界に入っちゃう」と、率直に語り始めました。
「食べたい気持ちを我慢して友情を優先する。がぶが食べたい気持ちを抑えて友達としてめいとつきあっているところがみどころで、特に、がぶと浄瑠璃の太夫さんとの掛け合いは、普通では考えられない面白さです。また、歌舞伎には“だんまり”というのがあって、せりふなしの動きだけで、暗闇の中でオオカミとヤギが争っているのを表現しています。後には、“だんまりほどき”といって、それがその後どうなったかも表現するところまであります」と、歌舞伎の案内人を務めます。
「浄瑠璃はナレーションで、登場人物の心の中のことを言ってくれるんです、食いたいよ、食いたいよ、とか。だから、よく聞いてみてください」「客席と舞台をつなぐ花道は、いったいどこにつながっているんだろう。四次元空間にでもつながっているみたいに、上手に使っています。絵本に花道はないですからね」など、あふれる言葉は子どもさんに向けてというより、きむらさん自身が心から舞台を楽しんでいたことがうかがえるものばかりでした。
歌舞伎の面白さが自然とわかる
「本を書いても、お芝居や映画をつくるときは、時間も表現の仕方も違うので、構成をし直さないとできない。歌舞伎のシナリオを初めて見たときは一体どうなるんだろう、と思ったんですけど、実際に舞台をみたら、なるほど、と。もっと正直に言うと、舞台稽古ではまだ驚いていたんですが、初日になったら…」
きむらさんは、何度も見るうちに気づいたことがあったと言います。「見ている人たちの息をのんだり、ドキドキしたりが、俳優さんたちに伝わり、それを感じて気持ちが乗ってくると、もっともっとやってくれる。僕たちが一所懸命見ていると、それだけ芝居が変わるんです。今日見ても、明日見たらまた別のものがそこにあったりする。それが、歌舞伎の面白さかなと思います」。
以前はテレビや映画のない時代に生まれた歌舞伎を、現代人が見て面白いのかと思っていたと明かしたきむらさんですが、「これが、見ると結構面白い。テンポもあるし、音楽もあるし、実によくできている」と、いまや太鼓判を押すまでになっています。「歌舞伎の様式を知らなくても、見るとわかってしまう感じ」で、今回の隈取についても「3時間見ていると、自然になってくる。そういう気持ちの変化も面白いな」と、客観的に分析しています。
歌舞伎になる運命だった?
絵本はもともと1巻で終わるはずが、続きを請われて7巻になったそうです。「ガブとメイが自分たちでお話をつくってくれ、僕が追いかけて書くようにしてできました」。テレビや映画になることはよくあるけれど、「まさか歌舞伎になるとは。あんな歌舞伎の文字で書かれて…」と、南座のロビーに置かれた、“あらしのよるに”のまねき看板にも感慨ひとしおの様子です。「歌舞伎という世界の新しい命を吹き込まれた」の言葉には、生みの親だからこその思いが込められていました。
「イラストのあべ弘士さんは、僕の原稿を読みながら、めくった原稿用紙の裏にどんどん絵を描いていって、“これはお芝居と同じだ”と言っていたんですけど、こうして歌舞伎というお芝居になったんですから、これは歌舞伎になりそうな話だったのかな、と思いました」。まだまだ聞き足りないところで開演となり、幕が上がります。
幕間をはさんで約3時間、初めての歌舞伎観劇体験というより、客席を巻き込んだ生の舞台は、まるで絵本の「あらしのよるに」の世界に入り込んだような時間となりました。「先生のお話を聞いたことで、より深く入り込めた」と親御さんも満足の笑顔で、興奮冷めやらぬうちに楽屋で「がぶ」に再会して劇場をあとにされました。
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京都四條南座「九月花形歌舞伎」は9月26日(土)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットWeb松竹スマートフォンサイト、チケットホン松竹にて販売中です。