右近、笑也 秋季公演『傾城反魂香』への思い

右近、笑也 秋季公演『傾城反魂香』への思い

 10月31日(土)から始まる「松竹大歌舞伎 秋季公演」では、市川猿之助脚本・演出『傾城反魂香』が上演されます。
 近松門左衛門が人形浄瑠璃に書き下ろし、人気狂言として繰り返し上演されている「土佐将監閑居の場」に加え、序幕「近江国高嶋館の場」「館外竹薮の場」を併せて上演。お家騒動の背景が描かれたことでより理解しやすい内容となっています。
 公演に先立ち市川右近、市川笑也が意気込みを語りました。

市川右近
 平成19年10月、三越劇場での上演以来になりますが、本当にたまらなく良いお芝居です。師弟愛や夫婦愛、様々な人間愛が交錯していく中で、庶民の代表の夫婦が成長していく様が描かれていきます。

 浮世又平は最後に土佐の名字をもらって喜びますが、私も一般の家庭から歌舞伎の世界に入り、師匠の元で市川という名字をいただきました。役者として頑張っていけるように、懸命に芸道を精進している自分と同じように、又平は絵の道で頑張っている、ですから又平の気持ちが良くわかり共感もできます。人それぞれ感じ方は様々あると思いますが、私の感じている師弟愛というものを大切に舞台で表現したいと思っています。

 その土地その土地によって舞台をご覧になるお客様の反応は変わりますが、その違いが楽しみであると同時に、対応力や応用力、今まで学んできたことをどうやって舞台に活かすか、非常に勉強になる部分も多いのが巡業の良いところです。会場によっても花道のあるところ、短いところ様々ですが、三越劇場では最後の引込みで、立派な絵師となった又平夫婦が花道ではなく、客席通路を通って引っ込む演出にしました。民衆の代表である又平が皆さんの中に飛び込んで感動を分かち合う最後は素晴らしく、今回も会場によって工夫を凝らし、そのような演出も考えてみたいなと考えています。


市川笑也
 いつもは女方を勤めることが多いのですが、今回の狩野四郎二郎元信は立役です。判らない事も多く、実は女方のときより化粧にも時間がかかりますが、ここのところ立役を勤めさせていただく機会が多くなり、以前は前進とバックしか無かった自分のギアが、三速くらいにまでに増えたような気がしています。歌舞伎の基本を自分のものにするという事は、おそらく何にでも応用でき、歌舞伎の持つ力というものを感じています。

 先代の門之助さんの勤められた元信も師匠猿之助の勤めたものも、自らの肩を食いちぎりその血で絵を描くところをとても派手に演じられていました。三越劇場では私も負けないように首が痛くなるほど派手に勤めましたので、今回もやり過ぎといわれるくらいに頑張ってみたいと思っています。

 序幕では虎とのダイナミックな立廻りがあり、二幕目の土佐将監閑居の場では打って変わって歌舞伎らしい心理描写が描かれていきます。広い会場でも狭い会場でも楽しめるお芝居ですので、今回の秋季公演もきっと素晴らしい舞台になると思っています。虎の立廻りは本当に大変で演じる役者さんたちもへとへとですが、自分の描いた虎がしっかりと活躍してくれるように、腹筋を少し多めに描いてあげようかなと思っています(笑)

公演情報はこちらをご覧ください。

2009/10/14