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勘三郎 コクーン歌舞伎記者会見
演出家・串田和美と中村勘三郎が出会い、1994年から新鮮なこころみを続けてきた「渋谷・コクーン歌舞伎」。第九弾となる今回は『夏祭浪花鑑』の上演です。
1996年の第2回コクーン歌舞伎で初演された『夏祭浪花鑑』は串田和美のそれまでにない新しい演出によって、この作品が持つ物語の魅力を際立たせ、大好評を博しました。その後、2003年の再演ではさらに演出を練り上げ絶賛を浴び、ニューヨークでも大きな評価を受けています。
そして今年2008年6月、渋谷の町を沸かせた名作がさらなる進化を遂げて戻ってくる『夏祭浪花鑑』。上演に先立ち製作発表記者会見が行われ、中村勘三郎、演出・美術の串田和美が意気込みを語りました。
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串田和美―――
“コクーンで歌舞伎を”というアイディアが出たときに、勘三郎さん、当時の勘九郎さんに会いに行ったこんぴら歌舞伎の金丸座で上演されていたのが『夏祭浪花鑑』だったんです。
そして、コクーン歌舞伎の第2回目、第5回目に続き3度目の上演です。その間に大阪やニューヨークでも上演しました。
今回はベルリン、ルーマニアのシビウ、コクーン、そして松本での上演になります。ルーマニアのシビウは人口20万人ほどの地方都市ですが、毎晩のようにお芝居が上演され、毎年ヨーロッパに向けて大きなフェスティバルが開催されるという文化度の高い町です。
いろいろな場所で上演させていただくと、その度いろいろなものを吸収します。特にニューヨーク公演では、街のリズム・喧騒の中で稽古をして、本番を迎えると、どんどんと芝居が変わって、テンポも良くなってきました。
昔からの歌舞伎を大事にするのと同時に、絶えず息づいて日々成長する、それはまさにコクーン歌舞伎の一番大事なところだと思っています。
きっと今回も、ベルリン、シビウでいろいろなものを吸収すると思います。また、コクーンや松本でも意外な発見があるんじゃないかと今から楽しみにしています。
中村勘三郎―――
私たちが金丸座で上演していたときに、串田監督が楽屋に訪ねてくださったことがありましたが、今ちょうど、その金丸座で『夏祭浪花鑑』が上演され、海老蔵さんが団七とお辰を2役で演じています。それを私が指導させていただいたのですが、僕が人に教えるようになってしまったなんて、夢のようですね。そして、海老蔵さんもよく理解してくれています。
歌舞伎でもそうですが、人に教えるということで、自分の肚も見えてくるし、今度はまた違う役作りができそうです。
今回、ドイツとルーマニアでも公演があります。なんとか評価していただけるようにしたいと思っています。
さらに、林英哲さんのグループが音楽で加わってくださいます。コクーンは見に行くのも好きな劇場で、そこで毎年のようにお芝居をやらせていただいているのはありがたいと思いますし、夢は膨らむばかりです。今後ともどうぞよろしくお願いします。
東京と松本、ドイツ・ルーマニア公演の違い―――
串田―――
ベルリンは舞台の後ろに開放感がないので、逆にそれを利用して、“どこにも行けない、閉じこめられている”という感じをだしたらどうだろうかと思っています。
シビウは工場の敷地に劇場があります。ですから、それを見せてしまって、工場の中で夏祭りが行なわれている・・・工場の中に飛び込んでいく、そんな風にしたいと思っています。。
コクーンでは、何か違うことをしたいと、うずうずしていますし、松本では、祭りのシーンで市民ボランティアの方々に大勢出ていただきたいと思っています。
もし贅沢にも、すべての劇場で観ることができるお客様がいたら、それはそれは・・・全部見られるのは、今のところ僕だけ(笑)。皆さんに羨ましく思われるだろうなという気持ちです。
お辰について―――
勘三郎―――
今まではお辰という役を、団七といつも2役で勤めていましたが、今度は息子たちが演じます。自分が演じる時は、うちの親父(十七代目勘三郎)のようにと思っているんです。
今回の公演は、少し時間が限られていて・・・とくにシビウの公演は夜中10時から(笑)。その時間から芝居するのは生まれて初めてです。ですから少し上演時間が短くなり、2役はどうしても難しいので、今回は息子たち譲ります・・・本当は譲りたくないんですが(笑)よい勉強の機会になると思っています。そして、日本にもどって成果を皆さんに観ていただきたいと思っています。
外国人の歌舞伎に対する反応―――
勘三郎―――
いいですね。昨年のニューヨークでの『法界坊』の時、公演も最終日に近づいたころには、ショー・ストップっていうのでしょうか、笑いと拍手で芝居が続けられないので、生まれて初めて手で観客を制しました。いい気持ちでしたね。このままずっとここにいたい、というくらいの反応でした。
だからといって、日本で演じてる時も外国で演じている時も、気持ちに違いは無くて、本質的には同じなんです。外国の方に見せるからこうしようとか、日本だったらこうしようとか、団七なら団七の気持ちを変えるということはしません。そうするとおかしい物になってしまうと思います。
串田―――
きちんとやらなければと気が引き締まります。この前も下見にいったときに6本くらい芝居を見てきましたが、悔しいくらい質が高い。こういう芝居を毎晩のように見てる人たちの前でやる為には、見た目の脅しじゃないと思うし、本当にきちんとやらなければ思っています
コクーン歌舞伎について―――
串田―――
このように、再演を続けられるという事は作品が成長するという事なんです。見て下さるお客様も年齢を重ね、自分たちの感性も成長して変わっていく。そういう作品があるのは、お互いにとってすごく幸せなことで、それがずっと続くと“古典”というものになるんだなと思っています。
若いころは、新しい作品をどんどん作ろうという気持ちばかりだったのですが、コクーン歌舞伎でこういう作品に巡り会えるというのは本当に幸せなことです。
勘三郎―――
素敵な舞台に毎年出ることができて、本当にありがたいです。歌舞伎は特別なもののように思われてしまうところもありますが、それはこのコクーン歌舞伎では違ってきます。
前回の『夏祭浪花鑑』の千穐楽も、裏からいろんな人が舞台に登場して、カーテンコールも30~40分くらい。みんな舞台の上で踊ってました(笑)。もしかしたらこんな事、江戸時代ならあったんじゃないかなと思ったり。“歌舞伎もいろいろあるんだ”日本のお客様も、外国の方も、そういう風に思っていただけるとありがたいですね。
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さらなる進化を遂げる渋谷・コクーン歌舞伎『夏祭浪花鑑』。2008年の夏の始まりにふさわしい熱気溢れる舞台をどうぞお楽しみに。