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春猿が雪之丞として挑む『華岡青洲の妻』
2017年1月2日(月・休)から始まる三越劇場「初春新派公演」で、『華岡青洲の妻』に出演する市川春猿と、水谷八重子、波乃久里子、喜多村緑郎が、公演に向けての思いを語りました。
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突破口を見つけたい、もう一つ役を深めたい
「日本が誇る華岡青洲、世界で初めて全身麻酔を行い、乳がんを切った青洲という偉人が日本にいたことを、女の葛藤を絡めながらお客様におわかりいただけたら幸せです」。恒例となった三越劇場の初春公演、来年の作品『華岡青洲の妻』をそう紹介した水谷は、青洲の母で嫁の加恵と張り合う於継を勤めます。文学座の杉村春子が長く演じ続けた役で、「いまだに杉村先生に押しつぶされております。先生に抵抗できる糸口だけでも見つけたい。先生のお膝にすがるつもりでさせていただきます」。
「父(十七世勘三郎)と(初代)八重子先生、杉村春子先生とさせていただいた思い出深い作品」と言う波乃は、新派初演のその公演(昭和48年5月新橋演舞場)と同じ小陸を勤めます。「(原作の)有吉佐和子先生が、小陸は私よとおっしゃった。私が俯瞰で世界を見るように、小陸は青洲の家を、俯瞰で見ているんです。若い頃はわかりませんでしたが、今回はもう一つ深く、先生の言うとおりにできたら」と、あらためて意気込みを見せました。
喜多村と春猿、夫婦役が新派の舞台で復活
喜多村は新派に入団して2年目を迎えるこの作品で、新入団の春猿と夫婦役です。「30年来の友として、こんなに心強いことはありません」と、共演を喜びました。何度となく歌舞伎俳優が勤めた青洲役をできることが光栄と言います。「医術という人間の普遍のテーマと日常の女性たちの機微、壮大なテーマと実寸大の日常が並行して流れる素晴しいこの有吉作品で、医術に対する一心さ、求道者ともいうべき華岡になればいいなと思っています」。
春猿にとっては、新派入団後初、河合雪之丞としても初めてとなるこの作品で、華岡家に嫁いできた加恵を演じます。「私にとっては重い役でございますけれど、記録映像を拝見しながら勉強中です。八重子さんの加恵がとても素敵なので、右にならえでできれば。諸先輩方の胸をお借りして一所懸命勤めます」。夫役の喜多村とは歌舞伎で、「手足がどちらからどう出るか予想がつく」ほど共演していますが、新派では「その想像の域が広がるくらい長くやっていきたい」とも。
歌舞伎の女方から新派の女方へと転身する春猿ですが、今回は、「課題の多い舞台になる」とも感じています。「新派に溶け込んで違和感なくお客様にご覧いただくには、どう勉強し、修業していくか。一年生からやっていかないといけません。そして、これは永遠の課題として、死ぬまで消えることはありません」。
新派でも新作の大切さは歌舞伎と同じ
猿翁のもとで歌舞伎の修業を続けてきた喜多村と春猿は、「新派として培われてきた術、役者としての術と踏襲しつつ、新しいものにトライしていかないといけない」(喜多村)、「古典の継承、埋もれている作品の復活上演、新作。三本柱が大切になるのでは」(春猿)と、新たに身を置く新派の世界で自分たちが何をすべきか、熱い言葉で語りました。
そんな頼もしい二人を迎え、水谷は「明治大正昭和を演じる新派を、(古典芸能と現代演劇の間の)一つのジャンルとして確立させることが、私の生涯の役目だと思っています」と、心の底から絞り出すように信念を述べました。「頼もしい二人が入ってくださったので、世の中にもっと新派を広めていきたい。数多く舞台に新派がかかってほしい」。波乃の言葉からは、新たな年、これからの新派にかける四人の思いがよく伝わってきました。
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三越劇場「初春新派公演」『華岡青洲の妻』は、2017年1月2日(月・休)から23日(月)までの公演。新春、入団ご挨拶も行われます。ぜひ、初芝居をお楽しみください。チケットは11月30日(水)発売、公演詳細はこちら。