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「初春新派公演」鏡開きで河合雪之丞お披露目
1月2日(月・休)、初日を迎えた三越劇場「初春新派公演」で、開演前に鏡開きが行われ、出演者とともに、市川春猿が河合雪之丞と名を改めて登場しました。
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三越劇場創立90周年の記念すべき年の年明けに、ゆかりの深い二人が出演するのが今年の「初春新派公演」です。一人は、昭和2(1927)年4月の柿葺落公演に出演した十四世守田勘弥の娘、水谷八重子。もう一人は、戦禍を免れた三越劇場で昭和23(1948)年2月、六世菊五郎の教えを受けて初役の『鏡獅子』を披露した十七世中村勘三郎(当時もしほ)の娘、波乃久里子。そして、二代目襲名後初めての正月公演に挑む喜多村緑郎、劇団新派に入団して春猿から名を改めた河合雪之丞、元SKDの甲斐京子の五人が鏡開きのステージに登場しました。
2017年、劇団新派の第一声は水谷。開幕を直前にして「浮き立つ心もあり」、と声を弾ませて新年の挨拶を、ホールいっぱいに響かせました。上演する『華岡青洲の妻』について、「初めて乳がんをやっつけることができたのは日本人。その日本人が青洲さん。世界に誇るべきことです。本当の歴史を舞台で演じております」と紹介した後は、演じる青洲の母、於継になりきり、「大事な息子です、きれいな嫁も来ました。正面から喧嘩せず、ちまちまといじめるところもお楽しみくだされば」と、おおいに笑わせました。
波乃は10年続けて三越劇場の正月を新派で開けられることを喜び、「父が『鏡獅子』をやったとき、祖父(六世菊五郎)にあまりに怒られて死にたくなったそうです。死ななかったので、(私が)こうして生きて、命を取り留める芝居をさせていただいております」と、縁のある三越劇場への思いを込め、「一人でも多くの方がご覧になってくださることがうれしい」と、ご来場を呼びかけました。
喜多村は「世界で初めて乳がんを治した大偉人、華岡青洲のお役を年初から勤めさせていただけることが光栄」と語りました。襲名で去年一年が過ぎるのが本当に早かったそうで、年男として迎えた新年も、「我々俳優はいつも初日が元旦で千穐楽が大晦日のようなもので、意識していなかった」と言うほどでした。
「大役をいただいておりますので、小学一年生が校庭を駆けるように、ただひたすらにがむしゃらにやりたい」と語った河合は、新派の俳優として迎えた正月も、歌舞伎にいたときと変わらないとのこと。「一日でも多く舞台に立っていたい。役者としての本音だと思いますし、舞台以外のことを考えることがない」と、舞台ひと筋にかける姿勢を見せました。
新派の公演に参加すると、「普段、女優として近寄りがたいお二人に、おっかさん、小陸、と言えるんです。役得です。こんな幸せはございません。出演者の一員として一所懸命頑張ります」と述べたのは、青洲の妹於勝役の甲斐。今回は3度目の『華岡青洲の妻』出演とあって、「一度ではできなかったところ、ダメなところが見えてきますので、そういうところを少しずつ頑張りたい」と、勉強家の面を見せました。
「歌舞伎界から劇団新派へ移籍させていただき、末席に加えさせていただいたことが本当にうれしい。ある意味、歌舞伎にいたときよりもシビアに、アグレッシブに芝居づくりをしていかないといけない。加恵というお役は、大勢の先輩女優が演じてきた役。先輩の胸を借りて一所懸命勤めます」と、決意のほどを見せた河合。稽古の度、「血管が1本ずつ切れていく感覚がある。大偉人、天才の役なので、やるにはそれくらい人間的エネルギーが必要」と、本作への気合のほどを感じさせた喜多村。
その二人を間近で見てきた波乃は、「二人が命がけなのには本当に脱帽します。稽古中に素晴しい役者魂を拝見しました」と明かしました。舞台に向ける情熱、気持ちは五人とも同じ。水谷が最後に、「お客様に(芝居が)どういう風に沁みとおってくれるか。お客様の前でやる今日が勝負です」と、初日直前の出演者一同のたかぶる気持ちを代弁し、そろって初日の舞台へと向かいました。