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「ぎんざ木挽亭」出演の入船亭扇遊に聞く『文七元結』
12月14日(金)、歌舞伎座ギャラリー「ぎんざ木挽亭」 by TOKYO KOBIKI LAB.の第一部に出演する入船亭扇遊に、今回披露する落語『文七元結』について聞きました。
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――今回の『文七元結』は、円朝の噺を元にした『人情噺文七元結』として歌舞伎ファンにはお馴染みです。
私はこの噺を師匠の(九代目入船亭)扇橋から稽古してもらいました。歌舞伎では吉原の角海老ですが、私は角海老を曲がったところの佐野槌でやっています。落語では演者で店の名前が変わることが結構あります。教わったままやるので40分くらい、そんなに長くありません。もう一席はネタ帳を見て決めましょう、『文七』が人情噺だから滑稽噺になると思います。
人情噺は、お客様が笑うところは滑稽噺に比べると少ないかも知れません。私は落語の基本は滑稽噺だと思っています、でも、円朝師匠という方が、…今の落語の祖といわれてますけど、すごい師匠ですよね。この噺に限らず、たくさんの噺を残してくださっています。創作力がすごい。物語としてしっかりしているからお芝居にもなりやすいんでしょう。ただ、私は円朝師匠のものだからやりたいというわけではなく、やはり噺のもっている魅力です。
――主人公は左官の長兵衛。
腕のいい“シャカン”ですね。腕がいいのに博打を覚えてのめり込み、借金だらけになってしまう。談志師匠も落語っていうのは業の肯定だとおっしゃいましたけど、急に改心して立派になったっていうのは、落語はあまりない。だめなものはだめ、でもまあそれもよし、とするんですよね。
それと、落語って一人で何人もやるので、そっくり感情移入してしまうのは難しい。100パーセント感情移入という落語はできません。先の小さん師匠がよく言っていたことですが、“了見にならなくちゃいけない”。落語家それぞれの考え方だとは思いますが、私はしゃべっている人物の了見になってしゃべりたいと思っています。
――歌舞伎でもいい場面がたくさんありますが、長兵衛と文七の出会いは大きなみどころです。
そこがひとつ眼目ですよね。果たして娘を売った金を人にあげられるのか。先輩師匠方がそこを一番、苦労なさっているんじゃないでしょうか。私は江戸っ子ではないので余計、本当にあげられるのか、葛藤はあります。だから、本当にお前は死ぬのかって、かなりくどく聞くんですよね。そこの持っていきようで、せりふや口調でこいつにはあげないよな、と思われたらおしまいです。
十七世勘三郎さんの長兵衛を一度、歌舞伎座で拝見しまして、もう素晴らしいと思いました。角海老で長兵衛の足がしびれるところ、あれは落語は無理ですね、落語は立ち上がることがないので(笑)。
落語では、大川端で金をたたきつけて長兵衛が去るのを、文七が目で追って、開けてみたら金、ありがとうございました、ありがとうございました…、トントントン、ただいま帰りました、トントントン、文七でございます、とすぐに近江屋卯兵衛宅の場になります。
――歌舞伎には登場しない場面です。文七の視線で長兵衛を追って幕、道具を変えます。
目は大事です。落語の基本は歌舞伎の上下(かみしも)で、若い子には歌舞伎をよく見なさいと言っています。自分の中で登場人物の位置関係があやふやだと、お客様のほうが混乱してしまうでしょう。自分がわからなければお客様にもわからない。花道の奥のほうへ目で追い、ありがとうございました…、
――で、すぐに場面転換。
長兵衛さんの家を訪ねるときも、「そばへ行けばわかります。昨日からよっぴで喧嘩しているようですから」と、酒屋の小僧に言わせて、「だからそう言ってるんじゃねえかよ」と長兵衛のせりふで長兵衛内に。まあ、落語というのは省略の芸なので、せりふひと言で場面が変わります。一瞬なんです。夫婦喧嘩でもおかみさんが玄関のほうへ行くのを目で追って、そこへ近江屋卯兵衛(歌舞伎では和泉屋清兵衛)が訪ねて来るって具合です。位置関係を変えないと同じ方向ばかり見ることになりますからね。
――舞台装置もなく、せりふ一つで転換。それが伝わるのが落語家さんの腕ですね。
要するに、お客様の想像力なんです、落語って。想像できない方には落語は厳しい。昔の言葉が今の人に通じにくくても私は説明しません。想像してくださいと、お客様に丸投げです。サゲに関係するようなことは、マクラでさらっと説明することもありますが、事細かく説明するのはやっぱり嫌ですね。だから、本当にきっちりと上下をわきまえることと、あとは先ほど言った、人物の了見が大切になってきます。
――師匠は落語協会理事でいらして今年、芸術選奨文部科学大臣賞も受賞されました。
青天の霹靂でした。私は熱海で生まれてずっと新宿の末広亭とかへ通っていました。朝から9時間くらいずっといて、ラジオの演芸番組を聞いて、中学卒業くらいには落語をオープンリールに吹き込んで覚え、自分で高座をつくってやっていました。母親は堅い仕事についてほしかったようですが、兄のおかげで落語家になれたと思っています。落語がもつ力ってやはりすごい。落語の力を頼りにこれからもやっていきたいと思います。
歌舞伎座ギャラリー
第五回「ぎんざ木挽亭」 by TOKYO KOBIKI LAB.
第一部「寄席演芸で聞く芝居のハナシ」入船亭扇遊独演会
■日時
2018年12月14日(金)19:00開演
※18:45開場、20:30終演予定
■チケット
第一部(全席指定):3,300円(税込)
※チケットホン松竹でのお取扱いはありません。
■お問い合わせ
松竹株式会社 TOKYO KOBIKI LAB.事務局 03-5550-1962(平日9:30~18:00)