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中車が語る、歌舞伎座「七月大歌舞伎」

中車が語る、歌舞伎座「七月大歌舞伎」

 

 7月4日(日)から始まる歌舞伎座「七月大歌舞伎」第一部『あんまと泥棒』『蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)』に出演する市川中車が、公演に向けての思いを語りました。

心の息遣いを感じたい

 中車が『あんまと泥棒』であんま秀の市を演じるのは、今回で2年半ぶり4度目です。盲目の役のため、終始目を閉じ耳の感覚に頼ることになると話し、「いつも以上に言葉の間が感覚高く入ってきます。一番最初は四代目(猿之助)とさせていただいて、血縁の呼吸というのは似ているのだなと強く感じました」と、平成27(2015)年に明治座で初役として演じた際の印象を振り返ります。

 

 尾上松緑演じる泥棒権太郎とは、平成30(2018)年以来の組み合わせ。「松緑さんとは色の違いがありましたが、逆にそのことが僕との差異を生んでいたのか」、思わぬところでお客様から笑いが起こったりと、「この作品の本質を教えてくださった」と言います。「松緑さんは、僕からすると本当に“いい人”。権太郎がもっている人の好さが内蔵されていらっしゃるような気がします。ですので今回はもう一度、秀の市として松緑さんのその心の息遣いを感じられたら」と、気合十分です。

 

 秀の市を演じるにあたり、平成3(1991)年の中村嘉葎雄の映像を手本としたと明かし、「久しぶりに自分の映像を見てみたら、全然だめでした。少し誇張している形になっていたので、嘉葎雄さんのリアルな動きをもう一度勉強し直して、この芝居がもつ面白みを素直に出せればと思っています」と、課題を口にします。役柄について、「基本は寂寥感がずっとあり、それが悪意になっている。僕自身はあまり意識はしすぎず、結果としてそれが分厚く出せれば」と冷静に分析する中車の演じる秀の市に、今から期待がふくらみます。

 

鍛錬を重ねて挑む 『蜘蛛の絲宿直噺』

  「七月大歌舞伎」では、『蜘蛛の絲宿直噺』にも渡辺綱として出演する中車。「四代目から、(中車として)ここは避けては通れない演目、というものを折を見てやらせていただいている」と語り、4月に歌舞伎座で上演された『小鍛冶』に続く猿之助との舞踊での共演に、気を引き締めている様子。コロナ禍で生じた空き時間では日本舞踊の稽古を重ねていたと述べ、「時間があったので、むしろそこはありがたくとらえさせていただいた」と、前を見据えます。

 

 また、「昨年8月に歌舞伎座が再開してから、二演目に出演するということが久しぶりで、他の四天王の方々と比べて僕は飛びぬけて年長者。大丈夫なのかな」と笑わせながらも、歌舞伎座という伝統ある劇場で、新歌舞伎と古典の二演目を勤めることの意義を嚙みしめているようです。「芯でいらっしゃる四代目の息遣いを感じながら勤めさせていただきます」と、抱負を語りました。

 

中車が語る、歌舞伎座「七月大歌舞伎」

 

歌舞伎俳優として生きる

 平成24(2012)年6月に九代目市川中車を襲名し、ちょうど10年目を迎えた中車。「『小栗栖の長兵衛』で初めて歌舞伎の舞台に立ち、“ああ、僕は今、生きている”と、生まれて初めて感じました。その実感は9年経った今でも変わらず、4月の『小鍛冶』で四代目と相槌を打っているときも、(澤瀉屋の先人たちが)間違いなくそこにいる、聞いてくださっていると思いました」と、自らが感じている歌舞伎の醍醐味を感慨深げに口にします。

 

 そんな9年間を振り返り、日々の鍛錬や歌舞伎の難しさに以前よりも迷いや苦しみが増えているとしながらも、「何があってもできるというのが歌舞伎の強みでもあり、我々の使命」と真摯に語ります。感染症対策による客席数の制限など、コロナ禍の影響に触れながらも、「粛々と日々同じことをする、どれだけブレないかだと思います。僕は常に、お客様がいるいないに関わらず自分の100%は出すべきだという思いでいたい」と、並々ならぬ決意を込めて締めくくりました。

 歌舞伎座「七月大歌舞伎」は7月4日(日)から29日(木)までの公演(第三部は16日まで)。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

 

※「澤瀉屋」の「瀉」のつくりは、正しくは“わかんむり”です

2021/06/14