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橋之助とG2が語る新作歌舞伎『東雲烏恋真似琴』

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 新橋演舞場8月公演「八月花形歌舞伎」 第二部『東雲烏恋真似琴(あけがらすこいのまねごと)』上演に当たり、主人公の藤川新左衛門を演じる中村橋之助と、作・演出のG2が、稽古中の本作について語りました。


新作歌舞伎の上演に当たって――橋之助
 G2さん脚本・演出の『魔界転生』(2006年)と『憑神』(2007年)(共に新橋演舞場)に出演させていただいて以来、「ゆっくりと練り込んだ歌舞伎をやりたい」という思いが二人にありました。G2さんの脚本は、役者として無理して気持ちを持っていかなくて済む。しかも作者が目の前にいるので、わからないことも説明してもらえる。つまり、役者にとってとても優しい。そのぶん、要求度が高いので、それに応えていかなければならないという厳しさがあります。

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物語について――G2
 「実話東雲烏」という浮世草子を原作としているのですが、テーマは現代的だと思います。一度会った女性にどこまで惚れ込めるかという恋愛成就の恋物語であり、ホームドラマの要素も含みながら、中盤からは殺しの場面もある。新左衛門が贈られた人形を死んだ妻と思い込む瞬間からは喜劇的な展開になり、そんな心の病を抱えた新左衛門と何事もなかったかのように接してきた周囲の優しさが招いた結果...、ややビターな結末に余韻が残ります。ご覧になる方によって、全然違う芝居になるのではないでしょうか。

舞台、演出について――G2
 衣裳も音楽も歌舞伎のものを使い、歌舞伎の舞台機構もフルに使いますが、舞台上に巨大な"厨子(ずし)"を作り、箱の中で芝居を見せるという装置だけは現代風かもしれません。人形はどう見ても人形にしか見えないものにし、なのに、新左衛門にだけは愛する小夜に見えているというおかしさを生み出します。歌舞伎の人形振りの手法は使いません。ちなみに、外題の後ろ3文字"真似琴(まねごと)"、"マネキン"とも読めるようになっているんです!

今回の作品上演について――橋之助
 正直、今はとても怖いです。平面のものを立体化するという役者としての楽しさはありますが、反面、作品として成立するのかという怖さもある。新左衛門の心の葛藤、妄想をどう描いたらいいのかも悩みます。でも、G2さんも毎月歌舞伎を書いている座付作者のような気持ちでやりたい、とおっしゃっていましたが、特別上演の歌舞伎ではなく、いずれは見取り狂言の一つとして普通に上演されるように、残っていって欲しいと思っています。

新作歌舞伎を書く、演出するということ――G2
 プロットだけで第5稿までつくり、台本は(新左衛門の妻となる小夜役の)中村福助さんとひざ詰め談判で練り直しました。稽古場に入ってからは、歌舞伎俳優の肉体に作品をぶつけることで、さまざまな化学変化が起こり、さらに面白くなってきています。歌舞伎をつくるのは、同じ日本なのにまるで外国に来たような気分になるのですが、伝統芸能に身を置く人たちが、僕のようなものが入ってきても、一緒に考えてくれ、皆がいいと思う方向にすっと決まっていくのが素晴らしい。今はとても不思議な体験をしている最中です。

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2011/08/02