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歌舞伎座「三月大歌舞伎」初日開幕

歌舞伎座「三月大歌舞伎」初日開幕

 

 2023年3月3日(金)、歌舞伎座「三月大歌舞伎」の初日が幕を開けました。

 第一部は、宇野信夫作『花の御所始末』。“昭和の黙阿弥”と称される劇作家の宇野信夫が、シェイクスピアの「リチャード三世」から着想を得て、染五郎時代の松本白鸚に向けて書き下ろした本作。40年ぶりに上演されるこのたびは、父・白鸚が勤めた足利義教に、幸四郎が初役で挑みます。舞台は、庭いっぱいに花木が植えられ人々から「花の御所」と呼ばれる、足利幕府の室町御所。そこへ憤慨しながらやってきたのは太政大臣・足利義満の次男・足利義教。自身が落馬したのは臣下の安積行秀(愛之助)の責任だと叱責します。その様子を見た畠山左馬之助(染五郎)は行秀を庇い、自らの命を差し出そうとするも、義教の怒りは収まりません。

 

 やがて管領・畠山満家(芝翫)と二人きりとなると、ある計画を打ち明ける義教。将軍の座を手に入れるため満家と手を組み、自身の妹・入江(雀右衛門)と左馬之助を結び付け、世継ぎである兄の義嗣(坂東亀蔵)を陥れます。ついに父・義満(権十郎)を寝所で手にかける場面では、義教の白い衣裳に赤い血汐が飛び、不敵な笑みを浮かべる姿に背筋が凍ります。冷酷非道な足利義教の栄光と末路、劇的な生き様がドラマチックに展開し、「悪の魅力」が美しく描き出された舞台に、客席からは大きな拍手が起こりました。

 第二部は、『仮名手本忠臣蔵』のなかでも単独での上演は珍しい「十段目」で始まります。舞台は廻船問屋の天川屋。主人の天川屋義平(芝翫)は大星由良之助の依頼を受け、ひっそりと赤穂浪士の討入りに必要な武具の調達をしています。情報がもれぬよう女房おその(孝太郎)を離縁し実家に帰す徹底ぶり。しかしある夜、義平の元へ、武具調達の嫌疑により捕手が押しかけます。息子の命を引き合いに出されても知らぬ存ぜぬを通す義平。そこへ一人の意外な人物が現れ…。大星由良助(幸四郎)の心情厚い計らい、夫婦の情愛とともに、討入りを陰で支えた人々の姿を描く熱いひと幕となりました。

 

 続いて、新古演劇十種の内『身替座禅』です。松羽目物の舞踊劇として人気の本作にて、松緑が初役で山蔭右京を勤めます。愛人の花子から恋文を受け取った大名山蔭右京は、奥方玉の井(鴈治郎)の目を盗み会いに行こうとします。右京は、ひと晩持仏堂で座禅をすると嘘をついて、玉の井の許しを得ると、家来の太郎冠者(権十郎)に衾(ふすま)を被らせ身替りにして、花子のもとへと嬉々として出かけていきます。しかし身替りを知った玉の井は、太郎冠者と入れ替わって右京の帰りを待ち構えることに…。夫婦のやり取りがユーモアたっぷりに描かれた名作に、劇場は明るい雰囲気に包まれました。

 第三部は、漂泊の歌人・吉井勇が描いた『髑髏尼』で幕を開けます。源氏による平家の公家狩りが行われ、荒廃した一條万里小路に現れたのは、我が子壽王丸を探す美しき上臈・新中納言局(玉三郎)。烏男(男女蔵)が口ずさむ歌が聞こえるなか、連れ去られた壽王丸の行方を追う局を見送った阿証坊の印西(鴈治郎)は、この世の無常を嘆くのでした。奈良の尼寺へ入った局は、亡き壽王丸の髑髏を傍らに過ごす様子から、髑髏尼と呼ばれるように。秘法を手に入れ、亡き夫・平重衡(愛之助)にひと目会うことがかなった髑髏尼の元へ、寺の鐘楼守で彼女に恋い焦がれる七兵衛(福之助)という醜い男がやってきて…。戦乱の虚しさと人々の孤独を描き、幻想と現実が美しく混ざり合う世界観に、客席は引き込まれました。

 

 最後は、上方和事の名作『廓文章』「吉田屋」です。大坂新町の吉田屋へやって来たのは、編笠をかぶり紙衣姿に零落した藤屋の若旦那伊左衛門(愛之助)。みそぼらしい身なりでも失われない品格とおかしみたっぷりな様子に、上方和事らしい空気が漂います。放蕩三昧で勘当されながらも、恋する遊女夕霧に会いたい一心でやってきた伊左衛門を、吉田屋の亭主喜左衛門(鴈治郎)は座敷に迎え入れます。そわそわと待ちわびる伊左衛門のもとへ、ようやく夕霧(玉三郎)が姿を現すと、その美しさに客席からも大きな拍手が。華やかな廓を舞台にした、上方の香り漂う優雅なひと幕に、酔いしれるひとときとなりました。

歌舞伎座「三月大歌舞伎」初日開幕

 

 歌舞伎座地下2階の木挽町広場では3月30日(木)まで、第5回「ねこ展」を開催しています。毎週、ねこ作家が入れ替わり計27作家のアート&グッズ作品を販売しておりますので、観劇の際にはぜひお立ち寄りください。 

 

 歌舞伎座「三月大歌舞伎」は26日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹チケットホン松竹で販売中です。

2023/03/07