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菊之助、米吉、隼人が語る歌舞伎座『マハーバーラタ戦記』
2023年11月2日(木)から始まる歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」で上演される『マハーバーラタ戦記』に出演の尾上菊之助、中村米吉、中村隼人が、演出の宮城聰とともに公演への思いを語りました。
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今、再演する意味
「昨年は、日本とインドの国交樹立70周年という節目の年でした。71周年目として新たなスタートをきる今年に、また『マハーバーラタ』ができることをうれしく思います」と、喜びを表す菊之助。 初演からの変更点を聞かれると、「二幕目の婿選びのシーンで、インド映画の舞踊を模した踊り合戦をして、勝ち残った者が王妃様に選ばれるという形につくり変えています」と話し、会場が笑いと期待に包まれます。「所作事や、最後の戦乱の立廻りに関してもブラッシュアップして、お客様に楽しんでいただける場面をつくっていけたら」と、アピールしました。
続けて、「今、再演する意味があると思います」と話したうえで、「迦楼奈や登場人物がもっている、『自分が人生を全うするのと同時に、人を生かすために生きる』という使命のようなもの、人と人とのつながりをもつことが難しくなっている今、そういう思いをもって生きていくことがとても大切なのではないかと思います。もう一つは“未来への希望”です。今作では、登場人物たちが葛藤を抱えながらも、未来への希望をもって物語が進んでいきます。お客様には、神様と人間の壮大な物語に身を置いていただき、少しでも憂さを晴らして、心躍る劇場体験をしていただきたい」と、真摯に話します。
再演からの出演に向けて
再演から出演となる米吉は、「(中村)梅枝の兄、(中村)時蔵のおじが二人で勤めた汲手(くんてぃ)姫を、今回私が一人で勤めさせていただくことになりました。一貫して勤めるからこその伝わりやすさを意識できたら」と、話します。「子どもを川に流す場面や、自分が流した子どもが帰ってきたことに気がつく場面も、今回は全部一人でやることになるので、前回の映像も拝見しつつ、お芝居のなかで私自身の気持ちを一貫してもって、大事に勤めたいと思います」と、意気込みを語ります。
「汲手姫という役は非常に人間味にあふれていて、神話でありながらも、さまざまなことに葛藤する一人の女性なんだと感じています。今回は、インドの風情ある生地を使って衣裳を製作していますので、そちらも楽しんでいただけたら」と、役の印象や衣裳についても話しました。
同じく再演から出演となる隼人は、「菊之助兄さん演じる迦楼奈のライバル役、阿龍樹雷(あるじゅら)という役をさせていただけることは、恐れ多くも光栄です。迦楼奈は、慈愛の心をもって戦を収めようとする主人公で、私の役は、天下無双の力による支配で人を治められるという考えをもつ存在。二人の考えの対比が出るように勤めたい」と、気合を込めます。
役づくりについて聞かれると、「力で世を平定しよう、戦を収めようという人物なので、頼もしさや腕っぷしの強いところがある人物だと思います。前回の(尾上)松也兄さんを参考にしつつ、これまで新作歌舞伎等で得た経験も生かしながら、初演から携わっていた方々にアドバイスをいただいて形にしていけたら」と、熱く語りました。
歌舞伎ならではのマハーバーラタ
菊之助が平成26(2014)年に、宮城の演出した舞台『マハーバーラタ~ナラ王の冒険~』を観たことがきっかけとなり、本作は上演へと繋がりました。初演に引き続き演出を勤める宮城は、「歌舞伎には、戦を描くことの蓄積がとてもあると思います。追い詰められたときに、人間の内に秘めていた顔が見えてくるような芝居も多いです。また立廻りなど、戦いそのものを描く技法もあり、歌舞伎の蓄積をもってすれば、戦を描くことにおいても、世界の演劇のなかで突出した作品をつくることができると気がつきました」と、振り返りながら話します。
「戦の原理として、自分の気に入らないものをどう黙らせるかというときに、圧倒的な力をもってすれば相手は黙るだろうという考えと、一方で、互いを尊重しようという考え方をもち込むことで、復讐の連鎖が止まるのではないかという考え。本作では、この二つの思想のコントラストを提示することで、戦の終わりへの希望が見出せるのではないか」と、思いを語りました。
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歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」は11月2日(木)から25日(土)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。