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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」初日開幕
2024年8月4日(日)、歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」の初日が幕を開けました。
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歌舞伎座の夏の風物詩として親しまれてきた「八月納涼歌舞伎」。今年も三部制で、意欲的な演目を取りそろえています。初日の開場前には、出演者15名がそろいの浴衣姿で、歌舞伎座の正面玄関前に登場しました。
早い時間から集まった大勢のお客様を前に、15名を代表し、幸四郎、勘九郎、七之助、巳之助、新悟、児太郎、橋之助がご挨拶。幸四郎は、「暑いですね」と笑顔で呼びかけ、「この暑さよりもっと熱い舞台がこの中(歌舞伎座)にありますので、そこですっきりしていただきたいと思います。千穐楽まで一所懸命、毎日すべてを出し切っていきます」と、気合を込めました。出演者が手にする直筆のうちわは、公演期間中、歌舞伎座2階のロビーに展示されていますので、ご観劇の際はぜひご覧ください。また、ご観劇いただいたお客様にうちわが当たるキャンペーンも実施中。詳細はこちらをご確認ください。
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第一部は、『ゆうれい貸屋』から。山本周五郎原作の人情喜劇で、このたびは巳之助、児太郎、勘九郎が、それぞれの父たちが勤めた役々を初役で勤めることで話題の舞台です。仕事もせずに出かけ、酒を飲んでいる桶屋の弥六(巳之助)に愛想をつかし、女房のお兼(新悟)は実家へと帰ってしまいます。そこへ現れたのは美しい芸者の幽霊、染次(児太郎)。家主平作(彌十郎)から店賃の滞りがあれば追い出すと言われた二人は、恨みを晴らしたい人に幽霊を貸し出す「ゆうれい貸屋」を考え付きます。染次は、屑屋の幽霊又蔵(勘九郎)らを呼び寄せ、大いに商いは繁盛しますが…。個性豊かな幽霊たちと弥六の軽快なやりとりに笑いながらも、人間の本性をも感じさせる哀愁あふれる人情喜劇に、客席からは大きな拍手が送られました。
続いての『鵜の殿様』は、歌舞伎舞踊として本年2月に博多座で初演され、好評を博しての再演となります。夏の盛り、大名(染五郎)が腰元たちを相手に舞を舞っています。大名は暑さしのぎに太郎冠者(幸四郎)を呼び寄せ、故郷の鵜飼の様子を語らせます。大名が自らも鵜飼ができるかと尋ねると、太郎冠者は日頃の憂さ晴らしにと、鵜飼をよく知らない大名に鵜の役をさせ…。鵜匠と鵜が縄でつながれている様子を、幸四郎と染五郎の親子が全身を使ってダイナミックに表現します。大名と太郎冠者を鵜匠と鵜の関係に見立てたおかしみあふれる舞踊劇に、客席からは笑いが沸き起こり、快活な雰囲気に包まれました。
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第二部は、『梅雨小袖昔八丈』で幕を開けます。祖父十七世中村勘三郎、父の十八世勘三郎が当り役とした新三に、勘九郎が初役で挑みます。髪結の新三(勘九郎)は白子屋の手代忠七(七之助)をそそのかして店の一人娘お熊(鶴松)をさらいます。手練れた髪結の姿から一変し、永代橋のたもとで忠七を罵り、蹴飛ばし、悪党の本性をあらわにしながらもどこか色気のある新三の姿に、客席は一気に引き込まれました。お熊を取り返そうとやってきた弥太五郎源七(幸四郎)に威勢の良い啖呵を切った新三のもとへ代わって登場したのは、長屋の家主・長兵衛(彌十郎)。弥太五郎源七との緊迫した場面から一転、老獪な長兵衛に新三が次第にやり込められる小気味よいやりとりに、客席からは大きな笑いが起こりました。初鰹を売る魚売りの声や、湯上りの浴衣姿の新三など、江戸市井の生活を活き活きと描き出す黙阿弥の傑作に、新鮮な風が吹き込まれました。
続いては、花形俳優の清新な顔合わせで夏の江戸風俗を軽妙洒脱に描いた舞踊『艶紅曙接拙(いろもみじつぎきのふつつか)』。幕が開くとそこは富士山の山開きで賑わう、浅草・富士浅間神社。庄屋の銀兵衛(巳之助)、団扇売りのお静(児太郎)、朝顔売りの阿曽吉(中村福之助)、蝶々売留吉(虎之介)、大工の駒三(歌之助)、町娘のお高(染五郎)、角兵衛獅子の神吉(勘太郎)らがそれぞれ踊ります。そこへやってきたのは、江戸で評判の紅翫(橋之助)。虫売りのおすず(新悟)に続いて面を使った踊りや多彩な芸を披露すると、客席から大きな拍手があがります。最後には賑やかに勢ぞろいの踊りとなり、華やかな雰囲気で第二部を締めくくりました。
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第三部は、ミステリー界の鬼才・京極夏彦脚本による新作歌舞伎『狐花』が、ついに開幕。物語は呪詛を生業とした信田家当主の妻・美冬に横恋慕した上月監物(勘九郎)らが信田家の一族郎党を皆殺しにした残虐な事件から始まります。事件から25年後、監物の娘雪乃(米吉)、近江屋の娘登紀(新悟)、辰巳屋の娘実祢(虎之介)、そして上月家女中お葉(七之助)の周囲に現れたのは彼岸花を染め抜いた小袖を着た謎の男・萩之介(七之助)。いくつもの謎をはらむ幽霊事件を解き明かすべく、“憑き物落とし”を行う武蔵晴明神社の宮守・中禪寺洲齋(幸四郎)が監物の屋敷に招かれます。やがて明らかとなる真実とは…。
作中では鮮やかな赤の曼珠沙華の花が物語の重要なモチーフとして登場し、「死人花」「墓花」「彼岸花」「蛇花」「幽霊花」「火事花」「地獄花」「捨子花」「狐花」と、曼珠沙華の別称で章立てされ、物語が展開します。そして暗闇のなかに赤く浮かび上がる曼珠沙華とともに人々を妖しくも、美しく哀しい物語の世界に誘うのは印象的な舞台音楽。劇場全体が一瞬にして幻想的な空気に包まれ、観客は固唾をのんでそれぞれの物語を背負った登場人物たちを見守ります。謎の真相に驚きと切なさが胸を揺さぶる幕切れに、まさに“京極歌舞伎”が誕生した瞬間を目撃した観客からは、割れんばかりの拍手が送られました。
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歌舞伎座地下2階の木挽町広場では、8月期間限定で超有名店の銘菓を販売しております。ご観劇の際はぜひお立ち寄りください。
歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」は、25日(日)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。