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染五郎が語る、歌舞伎座『木挽町のあだ討ち』

▲ 左から、市川染五郎、永井紗耶子、齊藤雅文
2025年4月3日(木)から開幕した歌舞伎座「四月大歌舞伎」昼の部『木挽町のあだ討ち』に出演の市川染五郎が、原作の永井紗耶子、脚本・演出の齋藤雅文とともに公演に向けての思いを語りました。
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『木挽町のあだ討ち』は、江戸時代の木挽町にあった芝居小屋を舞台に、若い侍の菊之助が果たした“あだ討ち”の真相を巡る物語です。原作小説は直木賞と山本周五郎賞を受賞。菊之助がいかに“あだ討ち”を成し遂げたかを、各章ごとに、彼を取り巻く芝居小屋の人々が、各々の視点からの記憶を独白していく緻密な構成、そして登場人物一人ひとりがもつ魅力が多くの読者を引き付けました。今回の舞台では、この物語が菊之助の視点から、時系列に沿って描かれます。

受賞作品を舞台に
「歌舞伎がずっと好きだった」と言う永井は、「歌舞伎が好きだということを表現した作品です。自分が生きているうちに歌舞伎になると想像しておりませんでした」と、感慨深く話します。作品の構想は、以前松本幸四郎(当時染五郎)に取材した際、四国こんぴら歌舞伎大芝居へ取材に行ったときに、舞台裏で大勢のスタッフが活躍する現場を見学し、「これだけの人が情熱をもって、一つの舞台ができ上がるということを表現してみたいと思った」ことから生まれたと明かします。
舞台化にあたり、「齋藤先生の脚本も素晴らしくて、元々自分で書いていたのに、脚本を読んでウルっときたりして…。菊之助に焦点を絞ったことによって、皆さんが観て楽しめる作品になっていると感じています」と、太鼓判を押します。さらに、「主人公の菊之助について、作中では、見目だけでなく心の佇まいも美しく、森田座の面々が支えたくなるような若者、そして思わず目を引きつけられる存在感を描いているのですが、まさにそのような存在だと感じました」と、染五郎のスチールを見た感想にも触れました。

まさにいま、旬な作品
脚本・演出の齋藤は、本作を「とんでもない運命を背負った普通の若者が、ごく近しい人を斬ってあだ討ちをしないといけない、その葛藤のなかで成長していく物語」と表現します。「運命と戦う青年という像が染五郎さんに、それを見守る森田座の人々も歌舞伎座の皆さんと重なる、旬な面白い構造になっています。誰もが共感できる、“今観ないと損”な芝居にしたいですね」と、言葉に熱がこもります。さらに、「歌舞伎座の舞台には何か季節感をとり入れたい」という思いから、「今回は雪月花、春夏秋冬のなかに、喜怒哀楽を込めた作品にしたい」と、胸にある構想を伝えました。
染五郎と舞台をつくるのはこれが7作目。染五郎の成長について、「一緒にお稽古をしていて、どんどんいい意味で期待が裏切られていく。まるで脱皮するように、別の生態型に変化していくようなスリルがある。お客様にも、この姿を同時に目撃していただきたいと強く感じます」と、顔をほころばせます。また、「このお芝居には現場のリアリティと緊張感が必要不可欠。それを(俳優の)皆さんがうまく反映してくれているような気がします」と、舞台作品としてバックステージものを上演する面白さにも言及します。

物語を彩る登場人物たち
染五郎は、「各登場人物の境遇を深く知っていくとともに、クライマックスのあだ討ちの真相まで一気に読める。歌舞伎の緩急あるテンポ感にぴったりな作品だと思っていた」と、原作を読んだときの感想を振り返ります。「自分がこれまで生きてきた芝居の世界で、侍である菊之助の異物感、場違い感を出せたら面白いのでは。そして葛藤し悩み決断して、それを支えてくれる芝居小屋の仲間が増え、徐々に皆に馴染んでいく、その成長過程をしっかり見せたい。内面的な部分も、菊之助という役を意識して積み上げていければと思います」と、役に挑む心境を語りました。
「常に、今できる最大限を積み重ねていきたい。限られた時間のなかで、どれだけ多くのことを発見して成長できるか、自分のハードルを上げられるかを意識しています」とストイックな一面も。「今回のお芝居では、菊之助が自分のなかで悩んだりどうしようかと考える場面が多い。父(幸四郎)は、相手にぶつけるところはぶつけ、自分のなかで葛藤するところは心中で葛藤する、そのどちらもあっていいのではないかと、お稽古をしながら具体的に話してくれます」と、父からもエールを受けて進んでいく様子がうかがえます。
「愛すべきキャラクタ―ばかりの登場人物全員に、さまざまな背景がある。お稽古でも、先輩方がそれぞれの境遇が滲んで透けて出てくるようなお芝居をしてくださっています。登場人物たちの個性や味わいがそのまま実体化された舞台になるだろうとワクワクしています」と、目を輝かせる染五郎。「歌舞伎ってすごい、芝居っていいなという熱さがこもった作品になるだろうと興奮していますし、その思いをお客様と共有したい。原作も読んでいただき、登場人物の人数分、何度も足を運んでいただきたいと思います」と、微笑みました。
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歌舞伎座「四月大歌舞伎」は4月25日(金)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で発売中です。