対談インタビュー

対談インタビュー 坂東巳之助×中村児太郎


 歌舞伎俳優の対談を通し、歌舞伎の魅力や作品のみどころ、芝居やお互いへの思いなどに迫る「対談インタビュー」。今回は、11月博多座「市川海老蔵特別公演」に出演する坂東巳之助さん、中村児太郎さんのお二人に語っていただきます。


写真/松竹写真室 構成/歌舞伎美人編集部

―― 11月の博多座「市川海老蔵特別公演」は華やかな演目が並び、素敵な公演となりそうです。

巳之助: 海老蔵のお兄さんからこのような機会を与えていただきました。お客様に楽しく充実した時間を過ごしていただけるよう精一杯勤めます。

児太郎: 僕は海老蔵兄さんの今年2月の特別公演でも博多座に出演させていただいて、そのときも『勧進帳』の義経と『羽衣』の天女を勤めました。ただ、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、2月27日の昼の回を上演後、夜公演以降は急遽中止となりました。同じお役で再び博多座に出られるのはうれしいです。
 …それでは巳之助兄さん、まず昼の部『流星』とはどんな演目か、ご説明お願いします。

巳之助: (児太郎に)どこの記者の方ですか?(笑)。
 『流星』は七夕、織女(織姫)と牽牛(彦星)が逢瀬を楽しんでいるところに、流星が、今でいう“空気を読まずに”やって来て、近くで夫婦喧嘩が起きていることを伝えるという、おかしみのある舞踊です。雷の夫婦、子ども、おばあさんを一人で踊り分けます。
 5年前に南座で1カ月勤めさせていただき、本興行では2度目です。本興行以外ではNHKの収録、歌舞伎座での「子供歌舞伎教室」でも勤めました。この年代で、このように同じ演目を何度も勤めさせていただける機会というのはなかなかないことかなと思います。

児太郎: 4年前、「子供歌舞伎教室」のときは僕も出させていただきました。

巳之助: そのときは児太郎くんに織女で出てもらったのですが、今回はこういう状況下ということもあり、織女、牽牛は登場しません。流星一人ではありますが、織女、牽牛に向かって踊っていることがお客様に伝わるよう、工夫を考えています。

―― 大正から昭和にご活躍された七世三津五郎丈からお父様(十世三津五郎)までお得意になさってきた踊りです。

巳之助: 坂東家にとって大事な演目で、大切に勤めたいです。

児太郎: 『茶壺』も、お兄さんのお家にとって大切なものですね。

巳之助: はい。今年の「新春浅草歌舞伎」で、初役で勤めさせていただき、今回が2度目になります。これも、短い間にまた勤めることができてありがたいですね。
 泥棒の熊鷹太郎が、田舎者の麻胡六から茶壺を盗み取ろうとするところ、役人から事情をきかれて田舎者のまねをして、さも自分の茶壺であるかのように答えます。田舎者が踊れば、自分も真似をして踊る。田舎者役の九團次さんとは、久しぶりに舞台をご一緒するので楽しみです。『流星』も『茶壺』も理屈抜きで、楽しい踊りなので、お客様に楽しんでいただけたらうれしいです。

―― 児太郎さんはまず『勧進帳』の義経役。

児太郎: 前回初めて勤めさせていただいたのですが、緊張で押しつぶされそうで吐きそうになりました。歌舞伎十八番の『勧進帳』という作品の重み、また弁慶や四天王が主君である義経のために命を懸けている、その舞台上で「義経でいる」ことの難しさ。曽祖父(五世福助)や六世歌右衛門のおじ、祖父(七世芝翫)の名演もありますからさらにプレッシャーです。祖母が祖父の舞台写真を持ってきたときは心が折れそうになりました。今回は2月に比べて「ちょっと成長したな」と思っていただけるように頑張ります。

巳之助: やはり『勧進帳』は独特の空気感なんだね。

児太郎: 夜の『羽衣』はお能仕立てで、途中で衣裳も替わったりして楽しいですよ。ただ天女は人間ではない存在ですし、難しいところもあります。

巳之助: 海老蔵兄さんがお出になる夜の『お祭り』には、私は鳶頭、児太郎くんは芸者で出ます。江戸の粋を華やかにお見せできたらと思います。