11月7日(月)に初日を迎える歌舞伎座「十一月吉例顔見世大歌舞伎」。待ちに待った「十三代目市川團十郎白猿襲名披露 八代目市川新之助初舞台」の幕開けを飾る公演となります。
歌舞伎美人では「十三代目市川團十郎白猿襲名披露」記念企画として、フリーアナウンサーの中井美穂さんによるインタビューのもと、襲名を迎える今の心境や、襲名披露演目について、海老蔵がさまざまな思いを語ります。
インタビュー/中井美穂
構成/歌舞伎美人編集部
中井:このたびは、ご襲名おめでとうございます。2020年5月から2年半、延期となっていました「十三代目市川團十郎白猿襲名披露」の公演が、いよいよ11月の歌舞伎座で開幕します。海老蔵さんから團十郎さんへ、お名前が変わることについて、まずはどのように感じていらっしゃるかお伺いします。
海老蔵:この2022年11月という時期について調べましたところ、祖父の十一代目團十郎襲名から60年、七代目團十郎が「歌舞伎十八番」を制定してから190年ということがわかりました。そして、代々の團十郎が、11月に襲名興行をしていることもあり、すでにして自分は「團十郎」という時間軸のなかに置かれているのかなという気がしていて、自然な成り立ちなのかもしれないと思うようになりました。
中井:なるほど…。ご自身が團十郎になるんだという、運命のようなものは感じていらしたのでしょうか。
海老蔵:市川團十郎家に生まれましたので、小学4年生くらいにはだいぶ意識としてあったと思います。海老蔵襲名の口上に列座してくださった(十世坂東)三津五郎のお兄さんが、「皆様、海老という生き物は、何遍も何遍も脱皮を繰り返して大きくなっていくわけです。ですから、この新海老蔵も何遍も何遍も脱皮していくと思うので、よろしくお願いします」と仰ってくださいました。海老蔵としての18年間で経験したことが、自然と團十郎に繋がっていくのだろうと、今は、そう感じています。
中井:脱皮して脱皮して、さまざまなご経験が、その次の段階に…。
海老蔵:なっていくのだろうと思います。ですから、気負い過ぎないことも大事なのかなとも。
中井:このたびの襲名興行では、11月の歌舞伎座公演から『勧進帳』の武蔵坊弁慶と『助六由縁江戸桜』の花川戸助六を勤められます。これは、ものすごいことなんですよね。
海老蔵:そうですね、ひと月のなかで勤めるのはとても大変なことだと思います。海老蔵襲名の際にも、実は弁慶と助六を同じ月に勤める話がありました。しかし父から、同時に演るのは大変なことだから、演りたい気持ちはあっても今回は我慢した方がいいと。それで私は『助六由縁江戸桜』の助六と『暫』の鎌倉権五郎、『勧進帳』では富樫左衛門を勤めることになりました。父はよく考えてくれていたなと思います。
中井:その大変さをわかっていながら勤められる、その気概…。それもまた團十郎の第一歩として、受け止めていらっしゃるのでしょうか。
海老蔵:襲名の披露ということもありますし、時期が変わったことで奇しくも成田屋にとって節目の年がそろいましたので、自然と『勧進帳』と『助六』を勤めるということになれたのだと思います。
中井:『助六』では、11月と12月のふた月で、お出になる役者の方々が違います。やはりお相手が変わることで、違ったところもありますか。
海老蔵:もちろん、違いはあります。ただ、助六が揚巻さんと会うのは実は後半だけですし、意休さんともそれほど多くの時間は向き合っていないのです。その点、私自身が助六を勤めるうえでの心がけはさほど変わりません。
中井:11月には、くわんぺら門兵衛で仁左衛門さんがお出になるのも、すごいと思いました。助六も演じられる方が、三枚目のお役で登場することには驚きました。
海老蔵:本当にありがたいことです。歌舞伎を盛り上げたい、新しい團十郎の門出を祝ってやりたいと思ってくださってのことなのではないでしょうか。第五期歌舞伎座の開場式や海老蔵襲名の『助六』では、播磨屋のおじさん(二世中村吉右衛門)が、くわんぺら門兵衛をしてくださいました。うれしいことでした。すごくありがたかったです。
中井:ご子息の勸玄さんは、11月に八代目市川新之助として『外郎売』に挑みます。ご自身も経験されたお役かと思いますが、今の勸玄さんと比べて、いかがでしたか。
海老蔵:それは勸玄の方がいいんじゃないでしょうか(笑)。延期によって2年半の時間があきましたので、今は稽古をやり直しているところです。すり込みと反復が伝統となるので、お稽古をしていくなかで上塗りしていくことが大事ですよね。
中井:ご自身もそうやって役を深めていったんですね。伝統ということは、古典というものをとにかく掘り下げていくことをお考えですか。
海老蔵:古典を掘り下げながら、一方で新作をつくる「古典と新作」の両輪が大事だと思っています。それは「文化と経済」のように、どちらか一方ではなく、ともに必要なものなのだと。
中井:そうなんですね。ちなみに、古典においても革新は必要なものでしょうか。
海老蔵:以前からやらせていただいていますが、例えば来年1月の新橋演舞場『SANEMORI』は、ジャニーズの方とやることで、古典を分かりやすく解釈してもらいたいという思いです。それは完全に新しいことではありませんが、古典寄りの新しいことなのかもしれません。
中井:そこのさじ加減が大事だということですよね。
海老蔵:大事だと思います。
中井:襲名では、成田屋さん所縁の演目が並びます。古典には、それぞれの家に伝わる型があると聞きますが…。
海老蔵:一つひとつの型について、口伝があります。同じ演目でも、お家によって衣裳が違ってきたりもしますよね。ただ、型を知る、いわゆる「てにをは」をすべて分かるというのはなかなか大変なことかと思いますので、お客様にはまずご覧いただいて、それぞれに感じていただけたらと思います。
(12月に続く)
いちかわえびぞう。成田屋。昭和52(1977)年生まれ。昭和58(1983)年5月歌舞伎座『源氏物語』の春宮で初お目見得。昭和60(1985)年5月歌舞伎座『外郎売』の貴甘坊で七代目市川新之助を名乗り初舞台。平成11(1999)年1月浅草公会堂『勧進帳』で弁慶を初役で勤め、大きな話題となる。平成12(2000)年5月歌舞伎座『源氏物語』では光源氏を勤め、高い評価を得る。平成16(2004)年5月、6月歌舞伎座『暫』の鎌倉権五郎、『勧進帳』の富樫左衛門ほかで十一代目市川海老蔵を襲名。海外公演は、平成16年10月に十一代目市川海老蔵襲名披露をパリ・国立シャイヨー宮劇場で行い、その後も各国で公演。いずれの舞台も大きな話題となっている。平成13(2001)年芸術選奨文部科学大臣新人賞、平成19(2007)年3月フランス芸術文化勲章シュヴァリエ受賞。
なかいみほ。昭和62(1987)年フジテレビに⼊社。アナウンサーとして活躍し、「プロ野球ニュース」「平成教育委員会」など多くの番組に出演し⼈気をあつめる。平成7(1995)年フジテレビ退社。平成9(1997)年から令和4年(2022年)まで「世界陸上」(TBS)のメインキャスターを務めた。「タカラヅカ・カフェブレイク」(TOKYO MXテレビ)、「スジナシ」(TBS)、「華麗なる宝塚歌劇の世界」(時代劇専⾨チャンネル)、「アルバレスの空」(ナレーション・BSテレ東)などにレギュラー出演。その他、映画・演劇のコラム、動画配信番組、イベントの司会、クラシックコンサートのナビゲーター、朗読など幅広く活躍している。 平成25(2013)年より読売演劇⼤賞の選考委員、令和2(2020)年6⽉より新国⽴劇場の理事を務めている。