
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
毛剃九右衛門の汐見の見得(平成12年2月歌舞伎座『毛剃』より。写真提供:松竹)
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汐見の見得 〜荒事を演じる上で大切な、第三の表現 「元船」の場での見どころは、なんといっても幕切れ。大きく旋回した船の舳(へさき)に仁王立ちした毛剃九右衛門が両手を大きく廻して目をむく「汐見の見得(しおみのみえ)」です。
「この汐見の見得ももちろんですが、荒事の見得というのは壮大な宇宙観を持っていると思います。言葉で表現するのはとても難しいのですが、台詞で伝える、動きで伝えるのとは別の第三の表現、波動で伝えるとでも言いましょうか。目には見えないエネルギーが舞台と客席の間で交わされる時に生まれる圧倒的な力や感動、それが荒事にはあるのではないかなと思います」
人知の及ばぬ自然に人間が向き合う時、そこに生まれる大きな力。それは人間本来に備わったものではないかと團十郎さんは意外な例えでお話しくださいました。
「船の舳先でこう、手を大きく広げる汐見の見得といえば、ハリウッド映画『タイタニック』の有名なシーンもそうですよね(笑)。あのシーンももしかしたら、果てしない自然に身を置いたときに人間が感じる宇宙観を表現した結果生まれたのかもしれませんよ。もしかして『毛剃』をどこかで観たのかなと思ってしまうくらい、似ています。もちろん『毛剃』は江戸の作品ですから、こちらが『タイタニック』にヒントを得たということはありませんが(笑)」
自然の中に生きる宇宙観、それを言葉や動きではなくエネルギーによって伝える荒事の魂。先代達が舞台の上で放ったエネルギーを、團十郎さんは江戸の芝居絵に向き合って想像すると言います。
「江戸時代の芝居絵や役者絵にはもちろんデフォルメされた部分もありますが、眺めていると、役者の姿や客席の賑わいが実にリアルに伝わってきます。今では当たり前になっている型や台詞の奥にある深い意味に気づかされたり、当時の人たちを魅了した色彩感覚を再認識したり、様々なインスピレーションが湧いてきます。そういった感覚を私なりに、21世紀の歌舞伎に活かしていきたいと思っています」 |
私と歌舞伎座
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