歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 
 

受け継ぐ伝統 〜襲名とは、役者の命を継いでいくこと

 唐の霊山として誉れ高い、清涼山。そこに住まう文殊菩薩に従う獅子に孫獅子が生まれたという知らせで『門出祝寿連獅子(かどんでいおうことぶきれんじし)』は幕を開けます。三代揃っての出演で、ひときわ大きな存在として、小さな金太郎さんを見守る松本幸四郎さん。
 「『連獅子』は、物語そのものが芸、そして魂の伝承を表している作品です。そして何より金太郎が幼い頃から大好きな“獅子物”で俳優としての門出を飾れるのは幸せなことだと思います。稽古の後はちゃんと自分の毛に櫛を入れたり、浴衣をたたんだり、小さいながらも役者の基礎を日に日に身につけていますよ」
 この歌舞伎座で金太郎襲名披露を行なうこと、三代で連獅子を演じることは、60年を超すご自身の俳優人生の“奇跡”だと、襲名披露の記者会見で、幸四郎さんは喜びを表現しました。
 「私が二代目松本金太郎を襲名してから今年で63年目になりますが、役者というのは本当に幸せだとしみじみ感じています。勤める役を通して、人が生きる上での苦悩や悲しみ、それを乗り越える力を伝えるのが俳優という仕事です。人に感動を与え、その感動がまた客席からエネルギーとなって返ってくる。この幸せな生き方を、息子、そして孫が継いでいくのは奇跡ですよね」
 松本幸四郎家では、親と子供であっても「役者同士」という距離感でお互いが接していると言います。
 「もちろん血のつながった親子ですけれど、お互い芝居をするうちに役者の先輩と後輩、男優と女優といった関係が濃くなってきたように思います。私にとってはむしろ心地いい関係です。子供たちには親として、俳優としてこう育って欲しいと言葉で伝えるよりも役者としての生きざまを見せることを大切にしてきました。ですから金太郎にも“おじいちゃん”というより役者の先輩として接していくことになるのでしょうね。『連獅子』の親獅子、仔獅子ではないですが、親の姿を見ていかに生きるか、自分で判断していって欲しいと思っています」
 歌舞伎俳優に生まれたものにとって、襲名は大きな人生の門出です。それは芸を継ぐことであり、また魂を継ぐことでもあります。
 「襲名とは『名』を『襲う(=継ぐ、重ねる)』と書きますけれども、本当は『命』の“めい”なのだと思います。先代たちが重ねてきた俳優としての命そのものを受け継ぐこと、それが歌舞伎俳優として生きることではないでしょうか。私もその気持ちを持ち続けていますし、息子、孫にも俳優としての命を残していきたいですね」

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