歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



2008年八月納涼大歌舞伎の稽古風景。写真撮影:篠山紀信、写真協力:「家庭画報」
 
 「僕は小さい頃、ロビーの赤い大きな柱が大好きでね。あそこに蝉みたいにしがみついて遊ぶのが大好きでした(笑)。お正月飾りの餅玉飾りも大好きでね。白と桃色の玉を手でくしゃっと握ってつぶすのを“趣味”としていました。受付係の方にはずいぶん怒られましたね(笑)」
 歌舞伎座はもうひとつの自宅。幕間の最中、放送室に入って即興アナウンスをしてしまったり、揚げ幕の奥から先代の芝居に見入った思い出を話す勘三郎さんの活き活きした表情に、少年時代の様子が浮かびます。
 「中村屋は、芝居に出ている月は客席から見えないところで舞台を観るのが決まりでした。ですから父親の芝居は照明室で観せてもらっていましたね。揚げ幕の裏、舞台の袖、あとは浄瑠璃の方が座る“チョボ床”も特等席でした。二代目松緑のおじさんの『魚屋宗五郎』、後ろ姿ばっかり見ていたけれど、カッコ良かったですね」
 新しい歌舞伎座に馳せる想いは。――
 「近代的になっても人肌や木のぬくもりを感じる今の劇場の空気が残っていくといいですね。あとは私たち役者がいい芝居をしていくに尽きます。劇場が変わっても、歌舞伎は芝居が命ですから。新しい時代を作っていく一員であることに、ワクワクします」
 

十八代目中村勘三郎

1955年生まれ。3歳で歌舞伎座『昔噺桃太郎』の桃太郎役にて初舞台。世話物から時代物、新歌舞伎、新作と芸域が広く、力強く華のある存在感でどんな役どころでも観客を魅了し続けている。
祖父である六代目菊五郎の芸を継承する時代物『義経千本桜』の狐忠信や『菅原伝授手習鑑』の松王、舞踊『春興鏡獅子』、江戸気風に溢れる世話物の『髪結新三』といった舞台を勤め続ける。2004年3月から5月、歌舞伎座の『一條大蔵譚』の一條大蔵卿などで十八代目中村勘三郎を襲名。コクーン歌舞伎や平成中村座を立ち上げ、2007年には父である十七代目勘三郎の当たり役であった『隅田川続俤 法界坊』をニューヨークで上演。厳しいことで知られる地元の劇評家に絶賛された。
昨年は『夏祭浪花鑑』のヨーロッパ公演後、シアターコクーンで凱旋公演も行い、大きな話題を呼んだ。歌舞伎の本質を受け継ぐ古典に熱心に取り組みながら、野田秀樹作『野田版 研辰の討たれ』『野田版 愛陀姫』といった新作にも精力的に挑戦し続けている。


私と歌舞伎座

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