歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

私と歌舞伎座 ~役者・当代中村吉右衛門の半生を刻む場所

 現在の歌舞伎座が開場した昭和26年1月、『文屋と喜撰』の所化、『華競歌舞伎誕生(はなくらべかぶきたんじょう)』の秀頼で、吉右衛門さんはそのピカピカの舞台を踏みました。以来、歌舞伎座で長い時を過ごしてきました。
  「子供の頃に大好きだったのは、舞台の上にある“すのこ”と呼ばれる場所です。桜吹雪や雪を降らせるために大道具さんが登る高いところから舞台を見るのが大好きでした。危ないので、すのこの上に行ったことがわかるとたいそう叱られましたよ」
 まだ冷暖房もなかった時代。先代と過ごした楽屋の、とある音が耳に残っているそうです。
 「暖房がなかった頃は冬になると、楽屋の中に長火鉢が入りました。火鉢の熱で眉をつぶしたり、顔に塗るのに使う油を温めたり、お茶を入れるためのお湯も常に沸かしていました。鉄瓶のお湯が沸く音や、炭のはぜる音など、懐かしい響きですね」
 新しい歌舞伎座に馳せる想いは。
 「歌舞伎のできる芝居小屋であって欲しいと思います。歌舞伎座の魅力はなんと言っても、社交場のような劇場ロビーの華やかさや、お客様が楽しめるお土産屋さんや食堂といった気楽な場所、そして客席の賑やかな空気が同居するところです。劇場に足を踏み入れた瞬間から芝居の世界に入っていけるような、江戸の香りを次の世界に残す空間ができるといいですね」
 

二代目中村吉右衛門

1944年、八代目松本幸四郎(初代松本白鸚)の次男として生まれる。祖父である初代中村吉右衛門の養子となり、1948年6月の東京劇場『俎板長兵衛』の長松ほかで中村萬之助を名のり初舞台。1966年10月『金閣寺』の此下東吉ほかで二代目中村吉右衛門を襲名。父初代白鸚と初代吉右衛門の芸風を継承し、『仮名手本忠臣蔵』の大星由良之助や『義経千本桜』渡海屋・大物浦の知盛といった義太夫狂言の立役でのスケールの大きさ、人物の陰影を見事に表現する演技に定評がある。『極付幡随長兵衛』や『河内山』といった世話物では、爽やかな江戸気風を舞台いっぱいに感じさせる。2008年には初役で『四谷怪談』の伊右衛門を演じるなど、進取の姿勢を忘れず、時代物、世話物、コミカルな三枚目と広い芸域に意欲的に取り組んでいる。松貫四の名で新作歌舞伎も書く。日本芸術院会員。


お知らせ:9月2日(水)より歌舞伎座で『二代目-聞き書き 中村吉右衛門』(小玉祥子著、毎日新聞社)を先行発売いたします。



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