歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



新たな役への挑戦 ~親子で挑む、歌舞伎の未来

 昨年5月は歌舞伎座で中村富十郎さんの傘寿を記念した「第九回矢車会」が上演され、多くの観客が劇場に詰めかけました。父・四代目中村富十郎が大阪で行なった自主公演を引き継ぎ、復活狂言や新作に意欲的に取り組み、矢車会は回を重ねてきました。

 「歌舞伎座が建て替わる前に矢車会を上演させていただけたのは本当に嬉しいことです。今回は長男の鷹之資、長女の愛子とともにたくさんの方々が共演してくださり、これほどありがたいことはありません。『勧進帳』では私が弁慶を、鷹之資が義経を勤めましたが、10歳で義経を演らせていただけたのは私の傘寿のお祝いだったからで、普通ではとてもできませんよ。素晴らしいことです」

 矢車会に出演した俳優陣には、富十郎さんが自ら出演依頼をしたそうです。愛子さんと『雪傾城』で共演された中村芝翫丈をはじめ、中村吉右衛門丈、中村勘三郎丈、市川段四郎丈ら、皆さんふたつ返事で出演を快諾。富十郎さんは歌舞伎の世界の温かさを感じたと言います。

 天王寺屋ファン待望でもあった、富十郎さんと鷹之資さんの『連獅子』は厳しくも優しく子を見守る親と、成長する息子の姿が見事に重なり、会場には目頭をハンカチで覆う方もいらっしゃいました。

 「歌舞伎座が新しくなったら、鷹之資と演じたい狂言はまだまだあります。実はぜひ上演したいと思っておりますのが近松門左衛門の『聖徳太子絵伝記』です。この話は、聖徳太子が夢の中で天竺の須弥山に行き梵天様に会って法華経をいただくというもので、実によくできているんですよ」

この狂言に、中村富十郎さんが馳せる想いとは―

 「聖徳太子を鷹之資が、梵天様を私が演じたいと思っております。教典を授けるということは、芸を親から子へと伝承していくことに重なります。本を読んでいるだけでもう、どんな舞台にしようかワクワクするんです」

 伝統と時代感覚を共存させ常に前進し続ける天王寺屋の家風を、新しい歌舞伎座で拝見するのが楽しみです。

私と歌舞伎座

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