歌舞伎いろは

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『実録先代萩』乳人浅岡 撮影:松竹株式会社
歌舞伎座さよなら公演吉例顔見世大歌舞伎通し狂言 仮名手本忠臣蔵平成21年11月1日(日)~25日(水)
上演時間
演目と配役
みどころ

受け継ぐ伝統
 ~政岡とは異なる、浅岡の“我が子への愛”の表現

 「歌舞伎座さよなら公演」の最後となる4月の舞台で、中村芝翫さんが勤めるのは『実録先代萩』の浅岡。ご自身が演じるのは3度目ですが、歌舞伎座でこの役を勤めるのは初めてです。

 名作として知られ、しばしば上演される『伽羅先代萩』同様、奥州伊達家の御家騒動をもとにした本作品。物語の見どころを伺いました。

 「『実録先代萩』では亀千代の乳人である浅岡が御家騒動の重要人物のひとりである伊達安芸の娘、つまり伊達家の人間であるという設定がきちんと分かるのが『伽羅先代萩』との違いでしょうか。ですから浅岡には上流階級の人間らしい風格と上品さがあります。例えば、国元から到着した家老の片倉小十郎を御殿の浅岡が『上座御免下さりましょう』と言いながら迎える台詞などは、浅岡の立場をよく表していますよね。皆様ご存じの『伽羅先代萩』を違った角度から楽しめる芝居です」

 見せ場と言われるのは、我が子の千代松が若君にお目見得したいと江戸にやって来たと聞きながら面会を断る場面です。

 「訪ねてきた我が子に会いたい、けれど会えない複雑な想いを、台詞だけではなく、気持ちを込めた演技で伝えることが大切です。今回さよなら公演にあたって改めて台本を見直しました。浅岡の立場や言葉にできない気持ちが、しっかりお客様に響く舞台に仕上げたいと考えています」

 命に代えても守らなければならない若君と、愛おしくてたまらない我が子との間で揺れる浅岡の心情が全体を貫く芝居。また、この子役の役割も『伽羅先代萩』とは異なるところです。

 「『伽羅先代萩』は芝居の主導権が大人たちにありますが、『実録先代萩』は若君と千代松との対話で進んでいくんです。ですから子役がよりしっかりしていなければなりません」

 この度は、腰元梅香を演じる児太郎さん(福助さん長男)、千代松を演じる宜生さん(橋之助さん三男)、おふたりのお孫さんとの共演も楽しみです。

私と歌舞伎座

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