歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



「見初め」の舞台、木更津で獲れた新鮮なアサリと海苔を醤油の旨みを効かせて炊き上げた佃煮」

 与三郎とお富が恋に落ちた木更津の海岸は遠浅で、潮干狩りを楽しむのにぴったり。現在でもシーズンになると大勢の人で賑わいます。また、遠浅の海は海苔(のり)の養殖にも適していて、網を張るための支柱があちこちに立てられています。

 そんな木更津の海の恵み、アサリと海苔を使い、無添加で佃煮を炊き上げる岩崎栄子さんはこの道ひと筋の職人です。今回ご紹介する「浜だき佃煮セット」の6種類の佃煮のうち、アサリと生海苔の佃煮は岩崎さんが作りました。

 鉄の釜に長年使い足したコク豊かなタレとアサリ、せん切りにした生姜(しょうが)を入れて、蒸気で一気に沸騰させた後、炊き込むこと約15分。思わずできたての佃煮を口に運ぶと醤油のキリリとした味わいと、噛めば中から溢れてくるアサリの滋味で口の中が満たされます。ところが岩崎さんによると、「できたて」よりも風に当てて馴染ませた方が、醤油のカドが丸くなってより一層アサリと馴染んで佃煮らしい締まった味になるとのこと。さすがは保存食の佃煮。さすがは保存食の佃煮。“冷めても美味しい”のではなく“冷めた方がより美味しい”のです。

 そして、生海苔を炊くのは直火の釜。生海苔ならではのしっかりとした繊維が歯に心地よく、味付けは醤油を基調として甘くなく、佃煮というよりは小料理屋で出される海苔の煮つけのような、「海苔の佃煮」の概念を超える逸品です。

 「浜だき佃煮セット」には、岩崎さんが手がける二種のほか、生麩と椎茸の食感が楽しい上総時雨、削り節をふりかけにした風味楽、野蕗(のぶき)、椎茸の佃煮をセット。どれも築地の老舗、江戸一飯田が選び抜いた佃煮職人たちの逸品です。

遠浅の木更津の海岸で潮干狩りを楽しむ人々

木更津の海苔の養殖場

築地の老舗江戸一飯田の4代目、飯田さん