歌舞伎いろは

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味よし、栄養価よし、宣伝文句よし。蒲焼きは夏の大ヒット料理

 「石麻呂に 我物申す 夏痩せに よしといふものぞ 鰻捕り喫せ」(夏痩せには鰻がいいらしいから、川で捕って食べなさい)とあるのは「万葉集」。暑い! なんだか夏バテ気味かな。よーし、ここはひとつ、うなぎでも食べて──。となるのは、どうやら大昔の人も同じよう。

 それにしても、「土用の丑の日」ともなれば、パタパタとうちわであおがれた蒲焼きの芳ばしい香りに誘われた人々で、うなぎ屋さんは大繁盛。でもどうして「土用の丑の日」にうなぎを食べるのでしょう。その起源には諸説がありますが、最もポピュラーなのが、「平賀源内の宣伝」説。エレキテルで知られる源内が、夏にうなぎが売れなくて困っているうなぎ屋に相談されて、「本日土用の丑の日」と看板を出すようにアドバイスしたのが始まりだといいます。

 「丑の日に『う』の字がつく物を食べると夏負けしない」という民間伝承からヒントを得たこの謳い文句。江戸っ子の評判を呼びに呼んで以来、現在に至ることを思えば、我が国史上空前の名作キャッチコピーといえるでしょう。

 江戸の風俗考証書「守貞謾稿」によれば、古くはうなぎをぶつ切りにして串に刺して焼いたその形状から「蒲焼き」(植物の蒲の穂に似ている)。黒くこげて骨があって油も多い “いやしい食べ物”と考えられていて、滋養はあるけれども中流以上の食膳にはのらなかったようです。それが江戸後期には、値段が大串1皿200文(現代に換算すれば3,000~4,000円くらい)と同書。その頃からちょっと贅沢な料理となった蒲焼きではあります。が、しかし、うなぎに含まれる不飽和脂肪酸は、コレステロールを抑制し血液サラサラ効果があります。肌の新陳代謝を促すビタミンAをはじめビタミン類も豊富。老化防止や美容にもいいとあっては、夏バテならずとも食べない手はありません。

夏の土用(立秋前の約18日間)ごろから、海岸に打ち寄せる大波は土用波と呼ばれます。ちなみに、2009年は7月19日、31日が「夏の土用の丑の日」です

“蒲焼き”と名づけられる基になった蒲(がま。古くは“かま”)。池や沼の岸辺に群生します