歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



左から白酒売新兵衛、助六、髭の意休 五湖亭貞景画

『廓文章』より扇屋夕ぎり、ふじや伊左衛門、吉田屋喜左衛門と女房。五渡亭国貞画 早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁
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明るくおめでたい気分に誘う特別な食べ物

 年末と聞いて思い浮かべる光景は何でしょう。煌(きら)めくイルミネーションにジングルベルのBGM……? いえいえ、それは現代のお話。そう、少し前まで年の瀬に欠かせないものといえば「餅つき」でした。新たな年を無事に迎える喜びを格別なものとしていた時代。そのワクワク感といったら、現代のクリスマス以上だったのでは……。

 そんな師走の風物詩、賑やかな餅つきのシーンで始まるのが、上方歌舞伎の『廓文章(くるわぶんしょう)』です。大坂新町の廓(くるわ)、吉田屋で、遊蕩(ゆうとう)のために勘当されて落ちぶれた伊左衛門と恋人の太夫夕霧が久しぶりに再会します。が、ささいなことで痴話喧嘩に。その最中、なんと伊左衛門の勘当が許されたという知らせと、夕霧を身請けするための千両箱が届くのです。いっぺんに春が来たように浮き立つ吉田屋。ふたりの幸福感と、お正月の装いの遊郭の華やかさが響き合い、心弾む春の訪れを感じさせます。

 舞踊「団子売り」では、夫婦が仲良く餅をつきます。杵造とお臼という夫婦の名前も、ふたりが息を合わせて杵でついてはこねる様子の睦まじさも、なんとも微笑ましいかぎり。餅つきの、どこまでも明るくおめでたい雰囲気が相まって、観る人が思わずこの夫婦から団子を買いたくなってしまう、そんな楽しい演目です。

歌舞伎「食」のおはなし

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