歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


火をおこす時は左手に火打石、右手に火打金を、切り火をする時は右手に火打金、左手に火打石を持ちます。
火打石で使われていたのは、現代ならアクセサリーに使われるような瑪瑙(めのう)など透明感のある石です。かつては日本のあちこちでこうした原石が採掘されていました。

其の三 どこでも必要な火おこし

 ところで、大奥であっても町の湯屋であっても、火を使って湯をわかすという点は変わりません。この時に使うのが火打石と火打金です。明治期にマッチが登場して以来、火打石で火をおこす風景は見られなくなりましたが、カチカチと場を清める「切り火」は歌舞伎の世界を始め現代にも受け継がれている習慣です。

 もちろん江戸の頃には、火をおこすために誰もが火打石と火打金を使いました。左手に火打石を持ち、右手で火打金を打ちつけます。すると削れた鉄粉が火花となって飛び散ります。紙ではなかなか火がつかないほどの火の粉なので、これをふわふわとした火口(ホクチ)に着地させます。火口が赤くなったらそっと息をかけて燃えやすくし、その赤い火種に硫黄にひたした付け木を押し付けます。すると炎が上がり、ようやく火をおこしたことになるのです。

 現代の私達から見ると、たいへん面倒な工程ですが、茶を飲むにも灯りをつけるにも火が必要な時代ですから、誰もが習得していた技術でした。

くらしの今と昔

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