歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


18世紀、江戸は人口100万人以上という世界一の巨大都市となります。江戸人のおよそ半分が武士、残る半分が庶民ですが、武士の住む面積が江戸の約7割を占めるいっぽう、庶民たちの居住エリアは約2割。長屋という都会的住居があってこそ、この庶民の暮らしも成り立ったのです。(写真はイメージです。)
一般的な裏長屋の間取り図
参考:『図説見取り図で読み解く江戸の暮らし』中江克己・著(青春出版社)

其の一 裏長屋の路地では

 100万人都市の江戸の町で人口が最も密集しているのが、庶民の居住エリア。あちこちの裏長屋では、今日も女性達がにぎやかな井戸端会議を繰り広げています。

 裏長屋の一般的な広さは九尺二間、つまりたったの3坪程度です。土間と畳敷き4畳半だけで押入れもなく、置けるのは行李や風呂敷包みに小さな茶箪笥、そして衣紋掛け程度。江戸の名物でもある火事が起きたら、家財道具一切をまとめて駆けだしました。

 裏長屋の住人の多くは、物売りなどの独身男性たちです。もともと江戸初期は男女比が4:1程度とアンバランスでした。時代が進むにつれてその差は縮まっていきますが、やはり女性の数は圧倒的に少なく、「長屋暮らしで美人の女房をもらう」というのが、たとえば農村地帯からやってきた独身男性の願う幸せでした。

 少数派だからこそ、女性同士のつきあいは大切なもの。裏長屋が向かいあった路地には、板で蓋をした排水溝(ドブ)が流れ、また井戸やトイレ、ゴミ捨て場もあります。この共同空間で最も大切な井戸の回りで、女達は水を汲み洗濯をしながら、いわゆる井戸端会議をするのです。それは情報交換の場であり、社交の場でもありました。

くらしの今と昔

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