歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


道灌山は現在の西日暮里駅前近く、飛鳥山は現在の北区飛鳥山公園にあたります。こうした郊外の山は、薬草を摘み、土器(かわらけ)を投げもできる行楽地。桜や紅葉の名所としても親しまれていました。
虫売りの屋台は、派手な市松模様です。蛍のほか、声を愛でるためのこおろぎ、松虫、鈴虫、クツワ虫、玉虫、セミなどが商品です。また、これに合わせて売る虫籠は、技を駆使して作られた美しいものでした。放生会(旧暦8月15日)までの商売です。

其の一 耳で聴く秋

 さっと吹きぬけていく秋風は、瞬く間に夏の暑さを追いやります。頭の上からじりじりと照りつけていた日差しはやわらぎ、日脚も徐々に短くなっていきます。江戸の人々も現代人の私たちと同じく、この新しい季節の訪れを歓迎したものでした。

 野に響く虫の声は、澄み切った空気をさらに涼やかなものにしてくれます。日本には古来から、こおろぎや松虫の声を楽しむという風習がありました。風流を好む江戸っ子たちは、道灌山や飛鳥山など郊外まで「虫聴き」のために足を運びました。

 江戸市中に居ながらにして、虫の音を楽しみたいという人々のために、「虫売り」もやってきます。男も女も、そして子ども達も、買い求めた虫を虫籠に入れて愛でていました。虫にお金を出すというのは、大都市ならではのことです。ただし、現在の都会ではクワガタやカブトムシのような力強い昆虫がもてはやされますが、江戸で喜ばれる虫といえばまず夏の蛍、そして秋には声の良いきりぎりす(こおろぎ)や松虫でした。

くらしの今と昔

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