歌舞伎いろは
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お供え用団子はかなり大きく、直径が3寸5分(14.5センチ)あることも。近所の子ども達は、この団子を棒で突いて持ち去ろうと必死です。これは「月見どろぼう」と呼ばれ、たくさん盗まれるほど縁起が良く、盗んだ子どもも元気に育つと言われました。
ススキ売りは、月見の前日から当日の昼辺りまでのみの営業です。季節限定の商品なので高額でしたが、ふわふわとした尾花(ススキ)は江戸っ子の月見には欠かせません。なお、尾花のほか、萩、葛、撫子、女郎花、藤袴、桔梗は秋の七草です。

其の三 大きな団子で観月宴

 15日となると、未明から一家そろって団子を作るのが良いとされたので、女性たちはもちろん男も子どもたちも、どこの家でも大騒ぎです。しかも、八幡様のお祭りの日でもあるので、やがて神楽太鼓も響いてきます。

 小机の上の三方盆には、大きなお団子と共に、柿、栗、葡萄、枝豆、里芋の衣かつぎなどがうずたかく盛られます。さらにススキに女郎花(おみなえし)なども生けて、月にお供えするのです。あいにく雲が月を隠したら「無月」、雨なら「雨月」ですが、いずれにしてもお月見は行われます。

 ところで当時の月見は年に何度もあり、旧暦7月26日の二十六夜待ちも楽しみなものでした。また、8月の十五夜の後には、9月13日の「後の月」が待っています。十五夜のみですませるのは、「片月見」といって縁起の悪いものでした。十三夜もやはり団子を月にお供えしますが、その数は13個になります。この日は、隔年で神田明神の祭礼も行われるにぎやかな日でもありました。こうしたお祭りを重ねながら、江戸は秋を楽しむのです。
 『双蝶々曲輪日記(ふたつちょうちょうくるわにっき)』の『引窓』は、中秋の名月が見せ場で大切な役割を果たす演目です。引窓とは当時の天窓で、内側から紐を引くことで開け閉めします。この窓から漏れる月明かりが、南与兵衛の人情を手助けします。

くらしの今と昔

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