歌舞伎いろは
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炉開きは、現代では一般的に11月に行われています。夏の間に用いた風炉(ふろ)を閉じ、地炉(じろ)を開きます。「茶人の正月」とも呼ばれる、たいせつな行事です。
江戸では亥の子餅といえば、餡、豆粉、胡麻の3色牡丹餅。自宅で作りますが、牡丹餅の人気店で買い求め ることもありました。亥の刻(夜10時ごろ)に亥の子餅を食べると万病を除くのです。

其の二 温もりを再び呼び込む

 春の桜とは異なり、秋の菊は心静かに楽しむのが風流人。菊見は、長く寒い季節の到来がすぐそこに迫ったことを感じる花見です。やがて旧暦10月に入れば、茶の湯をたしなむ人々は炉開きを行います。半年にわたり蓋をしてきた茶室の炉(小さな囲炉裏)を開き、新茶の壷を開ける「口切り」の茶会を催すのです。春に摘みとられ暑さ厳しい夏を経たからこそ味わえる豊かな深みと、炉の温もりを感じながら、新しい季節が始まります。

 10月は亥月とも呼ばれ、初亥には御玄猪の祝儀のために暮れ方から諸侯が登城します。大手御門や桜田門外では大きな篝火(かがりび)が夜空を焦がしました。この日から将軍家や武家では火鉢や炬燵(こたつ)を使い始めます。

 猪は丈夫で多産ですから、玄猪の祝いは子孫の繁栄の祈りが始まりといわれます。この日の祝いでは、城中でも町でも餅を食べる習慣があります。城内や武家では紅白の餅がふるまわれますが、町では牡丹餅です。白餅、小豆餅、胡麻餅などの色とりどりの餅をほおばることが、来る冬に備えて万病を避けるまじないにもなりました。

くらしの今と昔

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