歌舞伎いろは
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夏の礼装

其の一 初午から学びも始まる

 武家の女性たちは、家格や階級で着るものが制限されていました。生地や模様、着用の仕方など、一見して身分が分かるようになっていたのです。

 たとえば「打掛」。今でこそ婚礼衣装としてお馴染みですが、当時は、上級武士以上の女性しか着ることを許されませんでした。打掛は冬季の礼装用で、御台所(将軍夫人)、姫君、大名夫人、大奥などで仕える上級女中などが着たのです。ちなみに、冬季の礼装である打掛に対し、夏季の礼装は「腰巻」。小袖の上に提帯(さげおび※1)を後ろで結び、その上に「袷(あわせ)」を着て両肩を脱ぎ、脱いだ袷の袖を帯に引っかけた状態です。

 ただし、一口に「夏季」「冬季」といっても、当時は年に4回の衣替えが定められていたので大変です。旧暦4月1日〜5月30日までが「袷」に「提帯」、6月1日〜7月30日までが「帷子」に「提帯」、8月1日〜9月8日までが再度「袷」に「提帯」、そして9月9日〜3月30日までが「小袖」に「掻取(かいどり※2)」と細かく分けられていたのです。つまり、日本独特の細やかな季節の移り変わりに沿った装いをしていたのでした。季節に合わせた装いができるのは、もちろん経済力があってのことですが、一種の「粋」とも言えるでしょう。

提帯(さげおび※1):江戸時代、公家の女子が袷や帷子の上に締めた幅のせまい帯。唐織、金襴、錦などでつくられた。位の高い人は夏だけ、低い人は夏冬共着用、結び方も高い人は一重回しで結垂。低い人は二重回しで結切。

掻取(かいどり※2):掻取とは、江戸時代の武家の女性の正装のことで、打掛とも言われる。掻取に用いられる布は、紗綾綸子(さやりんず)が正式とされたが、縮緬(ちりめん)を用いることもあった。公家社会では特に掻取という表現を用い、歩く際に着物の褄(たもと)や裾(すそ)をからげることから派生した言葉とされている。

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