歌舞伎いろは
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。


其の二 夏の暑さを考えられて作られた家屋

 それでは、自宅ではどのような納涼の工夫をしていたのでしょうか。まず、家屋自体は、冬の寒さより夏の暑さに対応できるように作られるのが、江戸時代よりずっと昔から続く日本の伝統になっていました。

 鎌倉時代に著された兼好法師の『徒然草』に有名な一節があります。「家の作りやうは、夏をむねとすべし。冬はいかなる所にもすまる」。それほどに、室内を冷やすことは、暖めることに比べるととても難しく、高度な技術が必要だと考えられていたのです。現在でも使われる簾(すだれ)を日除けとして使い、日射熱を防ぎました。もっとも、風通しの良い家屋は、戸や窓を開けておくだけで結構涼しかったといいます。治安も現在に比べるととても良かったので、泥棒の心配もなく、存分に開けっ放しにできました。しかし、唯一の敵は、蚊。そのため、蚊帳(かや)を吊って刺されるのを防いだり、蚊遣り(かやり)を焚いたりして追い払ったのです。

 ところで、現在再び注目されている「打ち水」は、クーラーがなかった江戸時代の知恵。「打ち水」自体には、お客さまを迎え入れる際の礼儀としての役割が主だったようですが、これが熱い地面を冷やし、気化熱を利用して気温の上昇を抑えていたのです。生活で出た排水を、打ち水として二次利用すれば一石二鳥。江戸人の無意識のエコ感覚には脱帽です。さらには、風鈴を吊るして耳から涼を得たり行水をしたりするほか、「ひゃっこい、ひゃっこい」という掛け声とともに売り歩かれていた「冷水(ひやみず)」と呼ばれる白玉入りの砂糖水で体の中から冷やしたり、江戸時代の人々は知恵を絞っていました。
打ち水

くらしの今と昔

バックナンバー