歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



 

五月、大阪松竹座で上演 左甚五郎が登場する『銘作左小刀 京人形』

「新歌舞伎十八番之内 左小刀」明治23((1890)年 豊原国周画。
図中に「甚五郎 おやま人形 市川團十郎」とある。現在よく上演される『銘作左小刀 京人形』とは異なり、九代目團十郎がおやま人形と甚五郎を二役早替りで演じている。早稲田大学演劇博物館蔵。無断転載禁。(c)The Tsubouchi Memorial Museum, Waseda University, All Rights Reserved.



上野東照宮の、金箔の唐門額面にある「昇り龍・降り龍」。偉大な人ほど頭を垂れるという諺に由来し、頭が下を向いているものが昇り龍と呼ばれている。
(写真:上野東照宮ホームページより。無断転載禁)
 前回のコラムでご紹介した『銘作左小刀(めいさくひだりこがたな) 京人形』は、5月4日に初日を迎える大阪松竹座「團菊祭五月大歌舞伎」で上演されます。今回の「團菊祭」は何と大阪で初お目見え! 左甚五郎を坂東三津五郎さん、京人形の精を尾上菊之助さんが演じます。

 『京人形』という演目名がすっかりお馴染みになっていますが、三世桜田治助作、五世岸澤式佐作曲の『箱入あやめ木偶(にんぎょう)』などをもとに、河竹黙阿弥が改作した、万延元(1860)年初演の『拙腕左彫物(およばぬうでのひだりほりもの)』が基本台本。常磐津、長唄掛け合いの舞踊劇で、近年は『銘作左小刀(めいさくひだりこがたな)』という外題で、しばしば上演されています。「人形に魂が入る」という左甚五郎の伝説は、さまざまな作品に劇化されましたが、『銘作左小刀 京人形』が現代に残りました。

  さて、今回の旅で訪れた日光、東照宮にある「眠り猫」は左甚五郎作として大変名高い作品ですが、それと並び称されるのが上野の東照宮の、金箔の唐門額面にある見事な「昇り龍・降り龍」です。この龍には毎夜不忍池の水を飲みに行く、という伝説があり、講談でも語られています。一方、「眠り猫」については東照宮、つまり“寺”ではなく “宮”であるにもかかわらず、宗教が異なる「禅問答」に関わる謂れまであります。両作品とも見る人にさまざまな思いを抱かせ、さまざまな話が広がっていく、奥の深い作品ということなのです。ちなみに、江戸時代からずっと庶民にとって「名工」といえば「左甚五郎」だったのでしょう。昨年9月に歌舞伎座で上演された『松竹梅湯島掛額 お土砂』の吉祥院の欄間の吉祥天も劇中で「左甚五郎作」と言われていました。
文/栄木恵子(編集部)

歌舞伎と旅

バックナンバー