歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



愛用の逸品:呼吸する道具・ツケ板、ツケ木

現在使用中の芝田さんの道具。「1カ月打ち続けていたら、どうしても反りが出てきますから、終わったら削って直してもらいます。この板は、最初の半分くらいの薄さになってますね」

客席側からはなかなか見られない、舞台方向から見た姿。芝田さんほどのベテランでも、初日はいつも緊張するそうだ。

 

ツケ打ちの衣裳。たっつけ袴というスリムな袴(はかま)が特徴。たっつけ袴の腰板には、歌舞伎座の座紋(鳳凰丸)が入っていた。たっつけ袴は、1年で1枚くらいのペースではきつぶしてしまうそうだ。ツケ打ちは、大道具の仕事に含まれている。芝田さんもツケ打ちをしながら、大道具としての仕事もこなしている。

 ツケ打ちの道具はツケ板とツケ木ですが、それぞれ自分専用の道具を持ちます。手に持つツケ木のほうはカシの木、ツケ板はケヤキです。ツケ板は真っ直ぐ平らであることが大事なので、銘木店で買ってきたら、反(そ)らせるだけ反らすためにしばらく寝かしておくんです。しっかり枯れたところで製材してもらいます。

 これらの道具は、木でできていますから季節によって気候や湿度が異なると、微妙に影響を受けてしまいます。夏は乾いた音、冬は重たい音になりますね。一番大変なのが梅雨どきです。木が湿気を吸収して湿っているところに、ライトがばっと当たって急激に乾くもんだから、板が反ってくるんですよ。そうなるといい音がでにくくなる。でもそんなことはお客さまや俳優さんには言い訳できませんからね。そこをしっかり調整しなくちゃいけません。

 ツケ打ちの基本は、「バッタリ」。「いち、に」と打つ。これが「いちに、いちに」となると「バタバタ」。例えば走っている場面につける音でも、男なのか女なのか、侍なのか町人なのかによって、このバタバタを打ち分けるわけですね。

 これから舞台を担っていく後継者を育てることはとても大切です。教えるときは、あまり早くから道具を持たせないようにしています。最初のうちは間(ま)というものをじっくり勉強し、芝居をよく見ることが大切。それができないないうちから道具を持ってしまうと、道具に振り回されてしまう。道具を持ちたい、と辛抱している時間に何をどれくらい吸収するか。ここが重要じゃないでしょうかね。今は、3人の弟子たちが立派に成長してくれているのが私の一番の誇りです。その弟子達が、また弟子を育て、孫弟子と一緒にツケの文化を守り伝えていくことが私の夢です。

ちょっと昔の歌舞伎 モノからひもとく想い出あれこれ

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