歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



大切な1冊:通勤電車で読んだ『剣客商売』



『剣客商売 新妻』(新潮文庫)
池波正太郎 著/新潮社/1990年(初版本の出版は1976年)

「時代小説をよく読みますね。昔の映画やテレビには、歌舞伎俳優さんがよく出られていて、それらの作品の原作を読んでみようと思ったのが、きっかけです。池波正太郎や佐伯泰英が多いでしょうかね。
 池波正太郎の『剣客商売』は先ごろ亡くなられた二代目中村又五郎さん、『鬼平犯科帳』は松本白鸚さん(八代目松本幸四郎)がモデルと言われているでしょ。だからこれらの作品は、余計におもしろく読めますね。通勤電車でよく読むので、文庫版が便利でいいですね」



『鬼平犯科帳 新装版(一)』文春文庫
池波正太郎 著/文藝春秋/2000年(初版本の出版は1968年)

こちらも芝田さんがよく読まれるという時代小説シリーズ。テレビドラマシリーズでご覧になった方も多いと思います。歌舞伎の舞台としても上演されていますね。芝田さんは一度読んだ後、何年か経ってまた読み返すこともあるそうです。短くお話が区切ってあるので、電車での読書にも最適です!

芝田正利さんのヨコガオ
 歌舞伎座さよなら公演4月の打ち出しの演目だった『助六』。この重要な舞台も芝田さんがツケを打たれていました。取材をさせていただいたのは2010年4月上旬でしたが、歌舞伎座休場の話題になると、やはり寂しそうな表情を浮かべておられました。
 芝田さんは、お兄様の誘いがきっかけで、21歳のときにこの世界に入られました。大道具に2人「芝田」がいると呼ぶときに間違えてしまうので、お兄様は「おおしば」弟の芝田さんは「こしば」と呼ばれるようになったそうです。
 芝田さんは東京のお生まれで、粋な江戸言葉を使われます。たとえば「真っ直ぐ」は、「まっつぐ」。からっとした歯切れのよい口調ですが、その奥には歌舞伎への深い愛情と一緒に働く人たちへの優しさが感じられました。ちょっと近寄りがたい面構えで、しゅっと和服を着こなした芝田さんは、まさに肝の据わった古きよき日本人! こういう方に育ててもらうお弟子さんは幸せですね。
芝田さんが懐に忍ばせている自戒の札。「奢(おご)らず、謙虚にただただ感謝 有難うございます」。実は裏面にも文言が書かれています!


ちょっと昔の歌舞伎 モノからひもとく想い出あれこれ

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