歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



愛用の逸品:機能性と美を兼ね備えた多種の櫛

歯を巧みに使い、元結で髪を束ねる。ゆるまないように、きゅっと程良く締められるようになるには、かなりの修業が必要。

 床山の使う道具は一般の人からご覧になると珍しいものが多いかもしれませんね。髪を束ねるのは元結(もっとい)という紙でできたこよりのような紐を使いますし、すき油、中煉(ちゅうねり)など日常では使わない油も数種類用います。

 櫛も特殊な形をしたものがたくさんあるでしょ。かつらの種類にもよりますが、1枚のかつらを結い上げるためには、だいたい5丁の櫛を使います。私の持っている一番古い櫛は京都で買い求めたものですが、昔の値段で1,800円、今だと30,000円くらいでしょうかね。いい櫛はね、櫛屋さんが素材を長く寝かしてから作るので長年使っても狂いが少ないんですよ。ほら、こうして櫛の歯の並びを目の高さに持ってきて、歯先の並びを見るといい櫛は真っ直ぐ。悪い櫛は、歯の並びがうねうねしてるでしょ。これだけ差が出るんですよ。昔は奈良にいい櫛屋さんがあったんですけど、今はなくなってしまいましたね。これらの櫛を入れている道具箱も古いものです。底に作った年が印してありますが、昭和37年って書いてありますね。

 仕事にかかるときはまず髪のクセを直すんですが、コテというアイロンみたいな道具を熱して、髪にジューッとあてて真っすぐにします。今はヒーターを使っていますが、昔は鋳物の火鉢を使っていました。歌舞伎座の水道場にガス台が2つあってね、そこで火おこしを使って炭をおこすのが小僧の役目。私も入門したてのころはやっていましたよ。当時は、歌舞伎座の近くに都電の築地線が走ってました。昔は夜11時ごろまでお芝居があったので、赤電(最終電車)にぎりぎり飛び乗って帰ったりしていました。それから、今は高速道路になっているところが築地川だったりね。今とは風景が随分違っていましたね。

「ねずみ歯」という櫛。歯がとても短い。

 

ちょっと拝見している間にも、実に細かく櫛を使い分けていた。

 

コテとヒーター。床山の仕事になくてはならないアイテムですが、「お弁当の鮭をアルミホイルで包んでね、あっためたりもしますよ」という楽しいお話も飛び出しました。

ちょっと昔の歌舞伎 モノからひもとく想い出あれこれ

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