歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



大切な1冊:毎月隅々まで読む「演劇界」



雑誌「演劇界」
月刊誌/1943年創刊/演劇出版社 出版/小学館 発売
※明治40年創刊の「演藝画報」を母体とした演劇雑誌

「歌舞伎の舞台を記録しているいい資料ですから大変重宝していまして、演藝画報時代のものからずらっと揃えてありますよ。古いものなんかは、ほら合本にしてあるでしょ。
 最新号が届いたら、隅から隅まで全部目を通します。まずは劇評からですね。滅多にやらない演目が舞台にかかるときは、古い演劇界をめくってそのときの劇評を読んでみるところから準備をはじめます。この雑誌は、最大限利用させてもらっています」



『十七代市村羽左衛門聞書 歌舞伎の小道具と演技』
編者 佐貫百合人/日本放送出版協会/1983年

田中さんのお話にも登場した羽左衛門丈と佐貫百合人氏によってまとめられた書籍。刀や扇、傘などの小道具についてかなり専門的に書かれていて、文中に田中さんの談話なども挿入されています。この本を読むと、小道具ひとつにも多くの決まり事があり、またそれを制作するためにさまざまなご苦労があることがよくわかります。
※絶版のため、古書店や図書館などでお探しください。

田中勇さんのヨコガオ
 今回はせっかく小道具さんの取材なので、いつもは「愛用の道具」をご紹介いただくところを「思い入れのある小道具」を1~2点ご準備いただくようにお願いしました。事前にどのようなお品でしょうか?とおたずねしたのですが「うん、まあ」とはっきりおっしゃらない。当日になってびっくり! 刀、煙管、莨(たばこ)入れなどがテーブルにひしめくように並べられています! その数に仰天している私たちを田中さんはちょっといたずらっぽい眼差しで眺めておられました。まさに小道具さんの面目躍如たるお仕事!

 田中さんは膨大な数の小道具の使い方を隅々まで熟知しておられ、こちらからの質問に流れるようにお答えくださるのですが、ご自身で不明な点があると、さっと立ち上がってドアを出て、すぐに調べにでかけられます。そしてニコニコしながら、正解の答えを持って戻ってこられるのです。ベテランになられた今でも調べるということに真摯な姿勢に大変感銘を受けました。そして、これほど繊細に小道具を使い分ける歌舞伎は世界でも稀な芸能だと改めて感じ入りました。
(取材日:2010年6月8日)


ちょっと昔の歌舞伎 モノからひもとく想い出あれこれ

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