歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



大切な1冊:愛蔵版『新々訳 源氏物語』



『新々訳 源氏物語』
訳者 谷崎潤一郎/中央公論社/1964年

※里長さんが所蔵されている本は、愛蔵版として制作された豪華本。同じタイトルで装丁などが異なる版もある。
「読書は好きで、ご紹介したい本はたくさんあって迷いますね。この源氏物語のシリーズは母が買っていたものを譲り受けたのですが、題字や装丁、挿絵などいずれも凝っていてきれいでしょ。挿絵は奥村土牛、福田平八郎、前田青邨など一流の画家ばかりがずらっと並んで、とても豪華です。
私は、絵はもちろんですが、特に安田靫彦(やすだ ゆきひこ:日本画家1884-1978)の54帖それぞれの題字が気に入っています。書家の書とはひと味もふた味も異なる味わいがあって、この題字をお手本に臨書(りんしょ)をしたりもしましたよ」



邦楽舞踊シリーズ 長唄 越後獅子/松の緑
唄 芳村五郎治、芳村伊千十郎(現・鳥羽屋里長)
(商品番号:VZCG-6009)
財団法人 日本伝統文化振興財団

芳村伊千十郎(よしむらいちじゅうろう)とは、鳥羽屋里長さんの前名。若き日の里長さんが父の五郎治さんと共に録音にのぞまれたシリーズです。「松の緑」は長唄を習う人が最初に覚える曲のひとつで、歌右衛門さんとの想い出話にも登場するように『籠釣瓶花街酔醒』に黒御簾音楽として演奏されます。黒御簾音楽には、長唄の一部分を使う場合も多いので、長唄に耳を慣らしておくと舞台のお楽しみも増えると思いますよ。
この「邦楽舞踊シリーズ 長唄」には、「晒女(近江のお兼)」や「鷺娘」など歌舞伎舞踊でもおなじみの長唄がたくさん収録されています。

鳥羽屋里長さんのヨコガオ

里長さんは、生きた国の宝「人間国宝」。恐れ多い立派な方ですが、とても気さくなお人柄でした。率直に何でもお話くださるので、里長さんが心血を注いでおられる「歌舞伎長唄」「黒御簾音楽」というものの魅力が熱い球のようにストレートに伝わってきました。

里長さんの肩書きである「唄方」という二文字からは、なんとなく「長唄という音楽ジャンルを極めた方」という印象を受けますが、実は「歌舞伎の舞台に、声を使って風情や空気感、心理状態など、三次元、四次元の世界」を与える複合的な役割を担っておられることがよくわかりました。

里長さんはさまざまな才能をお持ちで、ご趣味も広範囲。25年ほど前から描きはじめたという絵は素人のレベルをはるかに超えて、この春に2度目の個展を開催。写真はマミヤ7という6×7の中判カメラなどをご愛用で、写真集にも掲載される腕前! 書も鮮やかですし、野球やゴルフなどのスポーツも長けておられたご様子。
何から何まで完璧すぎて凡人には遠い存在ですが、奥様が運ばれたロールケーキを美味しそうにほおばっておられる姿が微笑ましく、少しだけ身近に感じる素顔を拝見できた気がしました。
(取材日:2010年7月22日)

ちょっと昔の歌舞伎 モノからひもとく想い出あれこれ

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