歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



上質で独創的な建築や住まいづくりのための素材・技術・情報の集積スポット INAX:GINZAはル テアトル銀座のすぐ近く

階段手摺開口部の細工

松と竹が彫られた飾り金具

松と竹が彫られた飾り瓦(旧)

松と竹が彫られた飾り瓦(新)

 「神は細部に宿る」とは20世紀の建築界の巨匠ミース・ファン・デル・ローエが、建築意匠の中で、装飾を廃したミニマリズム(シンプルがよいという考え方)の中にもディテールに手を抜かないことを唱えた言葉と言われています。装飾を極めた歌舞伎の世界に、この言葉を引用することには異議のある方もいるかもしれませんが、建築物としての南座を見せていただいて、この言葉が思い浮かびました。

 歌舞伎発祥の地で元和年間(1615-1623年)に誕生した南座は、幾度となく焼失、復興や改築が繰り返されてきたそうですが、復興や改築を担当した建築家や設計者は、伝統を継承するという大きな使命を背負いながらの設計であったに違いありません。特に、外観はそのままに、内部を全面改修した平成3年の改築では特に大変ではなかったかと思います。細部という細部に神が宿り伝統を育んできた建築物において、残さなければいけないものと新しくするべきものを区別する作業の苦労は大変だったと推測します。正面の櫓や舞台上の唐破風などは歌舞伎小屋本来の面影を今に伝えるものとして有名ですが、実際に観察してみると松と竹が彫られた飾り瓦や朱塗り手すりに埋め込まれた飾り金具、階段手すりの開口部に嵌め込まれた細工など、いくつも残されてきたものがあるようです。特に、松と竹が彫られた新旧の飾り瓦や飾り金具からは、神が宿っているような松竹の伝統の重みを感じました。

 INAXライブミュージアムものづくり工房では、古い建物のタイル復原の話をいただく機会が多々あります。復原は当時の原料や製法を探ることからはじめる訳ですが、実際には当時の製法そのままに復原できることはほとんどありません。この理由は、当時の原料や設備がすでに無くなっている場合もあれば、品質的に現代の基準を満たさないための場合もあります。しかしながら、私たちは復原を同じ原料と同じ方法で作ることとは考えていません。最も重要なことは、当時の設計者や職人たちが表現しようとしていたことを再現することだと考えています。特に細部に宿った神たちが教えてくれることを大事にしたいと思っています。

INAXライブミュージアム ミュージアム活動推進室 室長
後藤泰男

平成 劇場獨案内

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