歌舞伎いろは

【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。



一昨年、Bunkamura20周年記念企画として上演された、『桜姫』の舞台(松竹株式会社(C))。 斬新な舞台美術、演出はコクーン歌舞伎ならでは。

舞台奥は搬入口に繋がっている。舞台面と客席の一部が可動式になっているため、自由な発想を生かした、さまざまな舞台づくりが可能だ。((C)Bunkamura)

自由な発想、熱い空間が生まれるワケ

劇場両側は、3層式のバルコニー席になっている。中2階・2階のバルコニー席の後ろには、コクーン歌舞伎上演時には当日券として売り出す立見のスペースがある。

平成6年の『東海道四谷怪談』から平成22年の『佐倉義民傳』まで、11回行われた「コクーン歌舞伎」のチラシ。2005年の『桜姫』から、宇野亜喜良さん描き下ろしの絵を使った、独特な雰囲気のチラシは"コクーン歌舞伎"の定番となった。

 Bunkamuraシアターコクーンで上演される「コクーン歌舞伎」は、平成6年(1994年)5月、中村勘三郎(当時は勘九郎)さんと中村橋之助さん、片岡孝太郎さん、市川染五郎さんらが『東海道四谷怪談』を上演したのが始まりです。歌舞伎ファンにはおなじみの"勘三郎さんと演出家・串田和美さんとのコンビ"は1996年8月の第2弾の『夏祭浪花鑑』以降のことです。

 振り返ってみると、『東海道四谷怪談』の「穏亡堀の場」の本水や『夏祭浪花鑑』の「泥場」の泥水が前方の客席に飛び散ったり、神出鬼没に客席のあちこちに俳優が入り込んだり。コクーン歌舞伎ではいやがおうにも観客は盛り上がり、劇場は熱くなります。昨年の『佐倉義民傳』では、ラップが義太夫にとって代わって使われ、大きな話題になりました。ラップに込められた虐げられた人々の怒りと苦しみ、繰り返される「走れ!宗吾ひた走れ!」と耳に残るフレーズ。俳優たちが大合唱するラップは熱く胸に迫りました。

 シアターコクーンは総客席数747席という中規模の劇場ながら、舞台から1階最後列の客席までは24mというコンパクトな空間を実現。また、客席の左右が3層のサイドバルコニー席になっていて、中2階、2階の席の後ろには立見のスペースがあり、まさに両サイドから観客が劇場を覆うようになっています。このような構造のおかげで、劇場を包む一体感が生み出され、独特の空気を創出しているのでしょう。
 1階前方のシートについては取り外しが可能で、コクーン歌舞伎ではよく座布団を敷いた「平場」になっています。さらに、取り外しができるおかげで舞台面の自由度が高くなり、自由な発想を生かした舞台づくりが可能になっています。一昨年の『桜姫 歌舞伎版』では舞台が客席の中に迫り出したかっこうとなり、舞台上後方にも客席が置かれて、舞台を360°観客が囲っているようになっていました。

 今年6月のコクーン歌舞伎では、1998年以来の待望の再演となる『盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』が上演されます。中村橋之助さんが13年ぶりに源五兵衛を、尾上菊之助さんがコクーン歌舞伎初参加で小万を、中村勘太郎さんが初役で三五郎を勤めます。清新な顔ぶれによる、"半年の Bunkamura 改修に入る前、最後の公演"で、演出の串田和美さんも「今回の公演はコクーン歌舞伎の歴史の中で一つの変わり目」とおしゃっています。串田さんは劇場にいったい何を"仕掛ける"のでしょう。大いに期待が膨らみます。

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