
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
こころを映す 歌舞伎の舞台
現在もロビーで見られる、旧演舞場を飾った装飾 ~時代を超えて受け継がれるもの~
|

このテラコッタは旧新橋演舞場を設計した建築家の菅原栄蔵がデザインし、常滑の工場で製作されました。菅原栄蔵とは『美術建築師・菅原栄蔵』という本がご子息から発行されているように、江戸時代を代表する数奇者の一人として知られる小堀遠州を好み、陶芸の会を催すなど自らも数寄者性を発揮し、大正~昭和にかけて芸術家としても活躍した建築家です。菅原の代表的作品である銀座のライオンビアホールは、緑と柿色のタイルに彩られた内装空間として、今でも多くの人に愛されている有名な建築物です。新橋演舞場の竣成時に発行された写真集(菅原栄蔵 新橋演舞場 1926年 光洋社)には、このような芸術性あふれたテラコッタが実際の建築外壁に使われていた当時の様子(写真3)が掲載され、菅原自身が「演舞場の設計は決して前からある理論を求めたり考えたりして制作したものではなく、時代や環境等によって形成せられた自らなる自己の芸術に即して、ただ虚心思うがままに制作したに過ぎないものである。」と書いています。大正12年に着工したものの、関東大震災により工事が遅れながらも、芸術性を追求したその精神は、木製の装飾壁に受け継がれ今も新しい新橋演舞場の正面を飾っています。
歌舞伎の世界がそうであるように、伝統を受け継ぎ、次世代に伝えていかなければならない精神性は、建築の世界でも同じであり、建築物を構成する素材のものづくりにも受け継がれなければいけないものと考えています。今年4月から出発した株式会社LIXILもまた、統合した各社のものづくりの伝統や精神性を受け継いでいきます。
INAX ミュージアム推進グループ リーダー
後藤泰男
![]() |
平成 劇場獨案内
バックナンバー
-
大阪松竹座
7月に大歌舞伎が上演される道頓堀の大阪松竹座。大正12年竣工の初代の建物は近代建築史上に残る名建築と言われ、道頓堀のシンボルとして親しまれていました。
-
博多座
6月に大歌舞伎が上演される博多座を取材。福岡空港、JR博多駅から地下鉄で直通の中洲川端駅に直結。遠方からのアクセスも快適、大変恵まれた立地です。
-
Bunkamuraシアターコクーン
今回は、6月の『渋谷・コクーン 歌舞伎第十二弾 盟三五大切(かみかけてさんごたいせつ)』の後、7月から半年、改修のための長期の休業に入るBunkamuraのシアターコクーンを取材しました。
-
旧金毘羅大芝居(金丸座)
国の重要文化財に指定された、現存する最古の芝居小屋旧金毘羅大芝居(金丸座)。歌舞伎界の春の風物詩「四国こんぴら歌舞伎大芝居」は4月9日(土)に初日を迎えます。
-
京都四條南座
歌舞伎発祥の地といわれる京の、四条河原付近に芝居街が誕生したのは元和年間(1615~1623年)。その元和以来の大変由緒ある劇場、南座の魅力をご紹介します。
-
初春を祝い賑わう 浅草公会堂
「新春浅草歌舞伎」が上演される浅草公会堂を取材しました。「新春浅草歌舞伎」はお正月の浅草の風物詩。浅草の人々の心意気に支えられ、育まれ、年を重ねてきました。
-
日生劇場
今回は「十二月大歌舞伎」が上演される日生劇場。立地は皇居にほど近く、日比谷通りに面した一等地。著名な建築家である村野藤吾設計の建物は学術的にも貴重なものです。観劇の際にはぜひ劇場にもご注目ください。
-
大阪平成中村座
新連載の第1回は2010年10月、11月に大阪城西の丸庭園内に出現した仮設劇場、大阪平成中村座を取材。舞台後方を上演中に開けて大阪城や庭園の緑を借景とする演出が大きな話題を呼んでいます。