
【歌舞伎いろは】は歌舞伎の世界、「和」の世界を楽しむ「歌舞伎美人」の連載、読み物コンテンツのページです。「俳優、著名人の言葉」「歌舞伎衣裳、かつらの美」「劇場、小道具、大道具の世界」「問題に挑戦」など、さまざまな分野の読み物が掲載されています。
こころを映す 歌舞伎の舞台
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『一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』「檜垣」の舞台背景(平成23年4月 新橋演舞場) |
名古屋市熱田神宮で見られる「信長塀」
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熱田神宮の「信長塀」。 |
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熱田神宮の本宮拝殿(ほんぐう はいでん)。年間650万人もの参拝者がおとずれる。 |
御園座10月の吉例顔見世で『一條大蔵譚(いちじょうおおくらものがたり)』が上演されますが、「檜垣」は御所の塀の外という場面設定。歌舞伎の舞台には、しばしば「塀」が登場します。
8月公演の片岡愛之助さん主演『好色一代男』は、歌舞伎ではありませんがこの舞台背景にも「塀」がありました。この「塀」は織田信長が桶狭間出陣の際、熱田神宮に願文を奏し大勝したことで、お礼に奉納したという「信長塀」を表していたものと思います。観劇の後、久しぶりに熱田神宮に足を運んでみました。多くの参拝者が訪れる熱田神宮にあって、信長塀は境内を包む杜の中にあります。土と石灰を油で練り固め瓦を多数積み重ねることで、鉄砲の弾も通らないように頑丈につくられたといわれていますが、現在では、外部からの進入を防ぐという塀本来の役割を終えてひっそりと佇む風情でそこにありました。
芝居用に作られた大道具の「土塀」から信長塀を想起し熱田神宮を訪れ、大道具の「土塀」が如何に写し取られ本物らしく表現されていたかを改めて感じることができました。おそらく「大道具の信長塀」を作った職人は、熱田神宮に足を運び、詳細な観察や調査を行ったに違いありません。「土塀」だけにかぎらず、歌舞伎や芝居で使われる道具はすべて、本物としての存在感を道具として表現するために、多くの裏付け調査や観察がなされているものと推測します。主役たちが華やかに芝居を続ける裏方で、数多くの努力と技術の伝承がなされていることをあらためて実感することができました。
快適な住空間を提供する弊社においても、キッチンやバス、トイレといった主役たちの影で、裏方としての小道具、大道具にも手を抜かず技術開発を続けて、本当の意味での快適な空間を提供していきたいものです。
INAX ミュージアム推進グループ リーダー
後藤泰男
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平成 劇場獨案内
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