『天守物語』を上演するにあたり、美しき異世界を描くため、まず玉三郎さんの頭を悩ませたのは舞台のしつらえだったそうです。
「永遠の魂が宿る空間をイメージした時、いっそのこと空舞台で上演できないものかと思ったほどです。歌舞伎座の舞台という大空間を埋めながら、天守の儚さ、天上の空気感を表現するためにどうしたらいいか。そこで、舞台上部の空間を通常より大きく空けることにしました。そして、役者が芝居をする立ち位置はいつもより3メートルほど前に出して客席との間に濃密な空気を作り出しました」
それは劇場全体を、あたかも天守に見立てた演出です。
「歌舞伎座で上演する『天守物語』は、天井や壁、柱の木肌感から劇場全体がまるで天守のように感じられます。目に見える狭い空間がありながら、どこまでも続く永遠の場所でもある。それは幾多の名優が舞台を踏んできた、歌舞伎座そのものにも通じるのかもしれません」
「客席です。私は小さい頃から両親に連れられて芝居を観ていましたから。客席に佇んでいると、華やかな衣裳に魅了された記憶、役者さんの動きひとつひとつに息をのんだ記憶、舞台に立ちたいと胸を踊らせた幸福がいつでも甦ります。八千代座で公演をする時も、朝早く劇場に入って客席で過ごすことがあります。舞台を観ながら想いを巡らせる時間が、好きなんです。」