歌舞伎の演目カテゴリ

時代物

「時代物」とは、江戸時代よりも古い時代に公家や武士の社会で起こった事件を題材にしたり、生々しい事件をその時代背景を過去に置き直したりして、忠義や裏切り、抗争などの入り乱れる悲喜劇に仕立てられたものを指します。人形浄瑠璃で人気を博した演目を歌舞伎にとり入れた作品も多く、物語の進行に大きな役割を果たしている音楽の名をとって「義太夫狂言」とも呼ばれます。「時代物」の代表作である『仮名手本忠臣蔵』『菅原伝授手習鑑』『義経千本桜』などは、この「義太夫狂言」の代表的なもので、歌舞伎の三大名作と呼ばれています。

  • 『勧進帳』(国立国会図書館蔵)

    『菅原伝授手習鑑』「車引」(国立国会図書館蔵)

  • 『菅原伝授手習鑑』「車引」(国立国会図書館蔵)

    『勧進帳』(国立国会図書館蔵)

世話物

「世話物」とは、江戸時代の主に市井の人の生活を描いた、当時の人々にとってはリアルな現代劇ともいえる作品群です。髪型、衣服、言葉遣いなど、まるで江戸の庶民生活が目の前に広がっているかのような芝居が繰り広げられます。実際に起きた殺人や心中などのセンセーショナルな事件を下敷きにすることや、義理人情、恩義をテーマに侠客を主人公に据えて物語がつくられることもあり、作品によっては演技、演出に前述の時代物の様式をとり入れた、折衷型の「時代世話」と呼ばれるものもあります。

  • 『青砥稿花紅彩画』「浜松屋」(国立国会図書館蔵)

    『青砥稿花紅彩画』「浜松屋」(国立国会図書館蔵)

  • 『青砥稿花紅彩画』「稲瀬川勢揃いの場」(国立国会図書館蔵)

    『青砥稿花紅彩画』「稲瀬川勢揃いの場」(国立国会図書館蔵)

松羽目物

松羽目とは、能舞台を模した舞台装置のことで、能や狂言を歌舞伎にとり入れた演目のことを「松羽目物」といいます。能の「安宅」に取材した作品として知られる『勧進帳』は、江戸時代に初めて松羽目を使って上演された演目といわれています。以降、明治時代になって、能や狂言のもつ高尚な雰囲気をとり入れ、格式高い舞踊や芝居を目指して多くの「松羽目物」がつくられました。能をもとにした『土蜘蛛』『茨木』『船弁慶』、狂言をもとにした『身替座禅』『棒しばり』『太刀盗人』などは、現代でも上演されることの多い演目です。

松羽目の舞台面

松羽目の舞台面

所作事

演目中の舞踊的な部分を指す言葉で、舞踊そのものを意味する場合と舞踊的な演劇を含めて使用される場合の両方があります。文字の通り、演者が音曲に合わせて舞い踊ることで物語を表現します。伴奏音楽も、義太夫、常磐津、清元、長唄などと多岐に発展し、もとは劇中の一場面だったものが独立して演目に発展した例も多く見受けられます。女性的な身体表現を中心とした演目が多く、『京鹿子娘道成寺』『藤娘』などはその代表といえますが、次第に男性的な表現を得意とする俳優たちが登場するようになって『雨の五郎』や、より躍動的で物語性の強い『積恋雪関扉』なども人気演目となりました。テーマや演出によって石橋もの、道行ものといったように「○○物」と細分化されて分類されることもあります。

  • 『積恋雪関扉』(国立国会図書館蔵)

    『積恋雪関扉』(国立国会図書館蔵)

  • 『京鹿子娘道成寺』(国立国会図書館蔵)

    『京鹿子娘道成寺』(国立国会図書館蔵)