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「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 『吉野山』 左より、中村鴈治郎、中村扇雀
(C)Chekhov Festival / Shochiku, Chikamatsuza

 9月22日(土)に千穐楽を迎えた「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演では、中村鴈治郎、中村扇雀らがロシア2都市で11公演を行い、外務省が主催する「ロシアにおける日本年2018」の最大のイベントとして日本文化、歌舞伎を紹介しました。

 9月9日~15日モスクワ、19日~22日サンクトペテルブルクで行われた「松竹大歌舞伎 近松座」公演は、開幕前より、芸術文化への造詣が深いロシアで大きな注目を集め、複数のメディアにとり上げられていました。

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 9日の公演初日開場前。新緑と噴水の水しぶきが彩る、公園のような劇場前には人があふれ、表門まで歌舞伎音楽が賑やかに鳴り響いた

 「ロシアにおける日本年2018」の文化交流の一つとして、メインイベントの筆頭に挙げられた「松竹大歌舞伎 近松座」。歌舞伎が海外公演の第一歩をロシアで踏み出してから、90年の節目の公演として、9月9日、モスクワの創建を祝う「モスクワの日」に、モスソビエト劇場で華々しく幕を開けました。開場前には劇場のバルコニーで清元、長唄、鳴物連中により『喜撰』の演奏も行われ、モスクワでの15年ぶりとなる歌舞伎公演に大きな花を添えました。

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 『傾城反魂香』 左より、中村鴈治郎、中村扇雀
(C)Chekhov Festival / Shochiku, Chikamatsuza

 最初は『傾城反魂香』で、又平夫婦は、劇場中央の通路を花道に見立てて登場。ロシア語の字幕が舞台の上方に出るのは、オペラ公演などでもお馴染みとあってお客様にとっても違和感がなく、又平おとく夫婦の物語もよく理解されて受け入れられました。しかし、筋を追うよりも俳優の演技、せりふ回しこそが言葉の壁を越え、目を釘付けにしていることはお客様の反応からも明らか。上演中は舞台に熱中して水を打ったような静けさでしたが、幕切れと同時に、割れんばかりの歓声が起こりました。

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 『傾城反魂香』 左より、中村扇雀、中村鴈治郎、片岡市蔵
(C)Chekhov Festival / Shochiku, Chikamatsuza

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 『吉野山』 左より、中村亀鶴、中村鴈治郎、中村扇雀
(C)Chekhov Festival / Shochiku, Chikamatsuza

 

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 初日9日のモスソビエト劇場。円形の劇場の上階席からも大きな拍手が

 近松座訪露公演芸術監督の坂田藤十郎は、夫婦愛が呼び起こす奇跡の物語が、国境を超えて人々の心に響くことを、これまでの海外公演でも経験してきましたが、今回あらためて鴈治郎、扇雀がそのことを証明した『傾城反魂香』となりました。

 

 幕間をはさんで『吉野山』、桜満開の舞台に自然と大きな拍手が起こります。桜を愛でる日本の美意識をロシアのお客様と共有することができ、続いて登場した源九郎狐と静御前の所作の美しさを堪能することへとつながっていきました。大きな拍手はこれから始まる舞台への期待の大きさでもあったのでしょう。真剣な眼差しが舞台に注がれ、徐々に高まった場内の熱気は、最後には喝采に包まれたカーテンコールへと変わりました。

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 横に広い歌舞伎の舞台と対照的に、客席は縦、舞台は奥へと空間が広がるのが特徴のモスソビエト劇場 (C)Chekhov Festival / Shochiku, Chikamatsuza

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 9日のモスソビエト劇場ホワイエ。額装された押隈は、7月の大阪松竹座『車引』のときのもの。日本大使館でも二人から押隈を贈呈

 9日の初日終演後、劇場ホワイエで行われたチェーホフ国際演劇祭によるレセプションでは、迫本淳一歌舞伎公演団団長と出演者が挨拶し、シャドリン総裁へ、鴈治郎の梅王丸と扇雀の桜丸の押隈が贈られました。

 

 また、15日のモスクワ公演千穐楽には公演団が、上月豊久在ロシア日本大使から大使館公邸に招かれ、7日間の公演の労がねぎらわれました。団を代表して二人からは、同じく押隈が贈呈されました。

 
「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 15日、モスクワ公演千穐楽の舞台を終え、在ロシア日本大使館に招かれた公演団。扇雀より右に、上月在ロシア日本大使夫妻、鴈治郎、亀鶴、扇雀の後方に市蔵

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 ボリショイドラマ劇場には花道が!

 モスクワでの7公演を終えた一行は、場所をサンクトペテルブルクに移し、19日から22日までボリショイドラマ劇場で4公演を行いました。劇場がもつ花道を活かしつつ、演者が客席後方から登場し、歌舞伎独特の花道の演出に、客席がおおいに沸きます。天井桟敷からも拍手が届き、スタンディングオベーションと喝采のうちにサンクトペテルブルク公演が終了。

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 ファンタンカ川のほとりにたたずむボリショイドラマ劇場。付近は重厚壮麗な建物が並ぶ

 22日の千穐楽には、5度目の歌舞伎ロシア公演がもたらした日露友好への貢献に対し、V.R.メジンスキーロシア連邦文化大臣から表彰として、感謝状が鴈治郎と扇雀へ贈られました。この度の全11公演はほぼ満席で、ロシアのお客様に歌舞伎の魅力を強く印象付けることに成功しました。 

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 初日前日の8日にはプーシキン美術館で女方の拵えを体験してもらう。スクリーンに化粧の様子を写し出しながら、鴈治郎が解説

 今回、モスクワ公演では、プーシキン美術館とモスクワ音楽院にて、歌舞伎ワークショップが開かれました。近松座公演でロシア公演の経験がある鴈治郎が進行役となって、歌舞伎の歴史や特徴、近松座との縁などを、自身の梅王丸の化粧の映像も交えながらレクチャーしました。プーシキン美術館では、藤娘の拵えを参加者が実際に体験する時間が設けられ、一方、モスクワ音楽院は音楽を重視した内容となり、竹本、清元、長唄囃子連中による生演奏も披露されました。

 

「松竹大歌舞伎 近松座」訪露公演で、鴈治郎、扇雀らが日露友好の懸け橋に

 モスクワ公演千穐楽の15日には、モスクワ音楽院で、鴈乃助が『藤娘』を披露

 

 より歌舞伎に親しんでいただこうという鴈治郎たちの熱意が込められた内容は、歌舞伎に関心の高いロシアの方々に大きな満足をもって受け入れられました。こうして、公演と皆さんとのふれあいにより、歌舞伎をより深くロシアの地に根付かせたいとの鴈治郎、扇雀らの思いは、90年目の海外公演の歴史に着実に足跡を残しました。

 

「ロシアにおける日本年2018」公式サイト

2018/09/28