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幸四郎、勘九郎が語る、歌舞伎座『安政奇聞佃夜嵐』
2022年8月5日(金)から始まる歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」第二部『安政奇聞佃夜嵐(あんせいきぶんつくだのよあらし)』に出演の松本幸四郎、中村勘九郎が、公演に向けての思いを語りました。
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『安政奇聞佃夜嵐』は、明治期に実際に起きた囚人2名による石川島監獄の脱獄事件をもとに、時代背景を安政期に変えてつくられた作品です。大正3(1914)年の初演時と昭和23(1948)年に六世尾上菊五郎と初代中村吉右衛門、昭和48(1973)年に二世尾上松緑と十七世中村勘三郎、さらに昭和62(1987)年には現・菊五郎と二世吉右衛門がそれぞれ演じてきた、親の敵討ちを志す青木貞次郎と、その相方の神谷玄蔵の主役コンビを、今回は幸四郎と勘九郎が勤めます。
歌舞伎ならではの表現で
島抜け(脱獄)した青木と神谷が、川を泳いで逃げる場面の舞台写真が記憶に残っていたと言う二人。今回取り組むにあたり、幸四郎は、「舞台いっぱいに広がった浪布を使った演出が評判になったそうで、昔から気になっていました。細かい芸と間が凝縮された芝居という感じがします」、勘九郎は、「島抜けの面白さ、愁嘆場、歌舞伎ならではのばかばかしさも含め、“歌舞伎”が詰まっている。今、書こうとしても書けない作品だと思います」と、この作品の印象を語ります。
二世松緑と十七世勘三郎の舞台音声を聞いたという勘九郎は、「しゃべっていないところでも、どかどか受けていて…聞かなければよかったなと(笑)。曽祖父や祖父たちの世話物の居方が参考になりますね。せりふでなく声になっている。その時代を生きている。生涯かけて目指したいと思います」と、刺激を受けた様子。幸四郎は、「(ヒントは)ト書きしかない。島抜けの場面も、泳げる青木と泳げない神谷の関係性をどのように見せるか。どれだけその真剣さが笑えるか。そこを考えたいと思います」と、意欲たっぷりです。
二人でなければ出来ない舞台を
本作が「勘九郎さんと一緒に演じたいお芝居の、最たるものだった」という幸四郎。「歌舞伎には、戯曲としてだけでなく、役者さんの存在も含めて成立するという作品が多い。これもそういうお芝居かもしれません。生の舞台で、勘九郎さんと僕の二人の芝居で芸をお見せして、歌舞伎を堪能していただきたい、そんな作品だと思いました」と、その心を明かします。
幸四郎の言葉を受け、「初めて聞きました。うれしいです」と勘九郎。「幸四郎さんと僕の強みの一つは可愛らしさだと思っています。青木と神谷については、悪い奴ですが間抜けで憎めない、チャーミングさを出せたらいいなと。このように音源しか残っていない作品を盛り上げていくことは、新作をつくるようなもの。僕たちの舞台を見た後輩たちに、自分たちも演じたいなと思っていただけるようになれたらいいですよね」と、笑顔で語りました。
先月の大阪松竹座「七月大歌舞伎」から続けての共演を素直に喜び、一緒に舞台に立つことが「楽しい」と、目を輝かせる二人。上演のたびに少しずつ脚色を変え、それぞれのコンビの魅力とともに観客を楽しませてきた本作で、今回はどのような舞台が展開されるのか。取材会中も勘九郎と息の合ったやり取りを見せるなかで幸四郎が述べた、「二人でないとできない舞台を目指したいですね」というひと言に、期待が高まります。
8月の歌舞伎座は挑戦の場
毎年のように8月の歌舞伎座に出演している幸四郎と勘九郎。幸四郎は、『義経千本桜』を通しで上演した平成4(1992)年8月の公演が印象深かったと振り返り、「大きなお役をいただき、とにかく終日舞台に出ている、熱いひと月でした。たくさんの経験を得て、刺激を一番受けた月です。8月の興行は、やはりほかの月とは違う色で、この月ならではの企画をもつ興行であり続けてほしいですね」と、思い入れを語ります。
勘九郎は、「子どもの頃から出させていただいている大事な公演です。いろいろなチャレンジもできますし、やってみたいこともたくさんあります。コロナ禍になってから再開した、2020年の8月も忘れられません」。第一部の『新選組』についても、「20歳くらいの頃、脚本の日下部太郎(山崎咲十郎)さんと語り合ったことが実現してうれしいですね。新選組がメインの芝居が歌舞伎でかかることは珍しい。ここからまた新しい時代が来たらいいなと思います」と、熱い気持ちを伝えました。
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歌舞伎座「八月納涼歌舞伎」は、8月5日(金)~30日(火)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。