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歌舞伎座「十二月大歌舞伎」初日開幕
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「十二月大歌舞伎」では、先月に引き続き、感染予防対策を講じながら、十三代目市川團十郎白猿襲名披露、八代目市川新之助初舞台の記念すべき興行として、充実の舞台をお届けします。正面玄関に掲げられた櫓や三升の正面幕、窓の鳳凰丸と三升の意匠に加え、今月は柿色のライトアップも始まり、劇場はますます、襲名を祝う賑やかな雰囲気にあふれています。
12月公演は、歌舞伎の様式美を堪能できる華やかな演目、『鞘當』で幕を開けます。舞台は桜が満開の吉原仲之町。松緑演じる不破伴左衛門と幸四郎演じる名古屋山三が、すれ違う際に刀の鞘が当たったことから斬り合いとなり…。争う二人を止めに入るのは猿之助演じる留女(偶数日は中車演じる留男)。荒事味ある伴左衛門と和事味漂う山三の渡りぜりふや、留女の啖呵が心地よく響きます。伊達を尽くした豪華な衣裳も目に美しく、廓風情に満ちた舞台に、劇場が華やかな空気に包まれました。
続いては、十三代目市川團十郎白猿襲名披露狂言『京鹿子娘二人道成寺』。今回は鐘供養から、市川團十郎家の家の芸「歌舞伎十八番」の一つである『押戻し』までを上演します。大館左馬五郎を團十郎、春爛漫の道成寺に現れる二人の白拍子花子を菊之助と勘九郎が演じます。二人の花子は美しくたおやかな舞を披露し、恋に悩む女心を描き出します。実は蛇体となった清姫の怨霊である二人の花子がその本性を現すと、花道より勇猛な左馬五郎が登場。華やかな踊りから一転して、左馬五郎が花道から本舞台へと怨霊を力強く押戻していく様子を観客も息を呑んで見守ります。典型的な荒事の扮装を身にまとい、存在感たっぷりの左馬五郎が観客を魅了しました。新團十郎と菊之助、勘九郎の同世代俳優がそろい、襲名を寿ぐ華やかなひと幕となりました。
昼の部を締めくくるのは、八代目市川新之助初舞台狂言『毛抜』。新之助が史上最年少の9歳で粂寺弾正を勤めます。舞台は梅玉演じる小野春道の屋敷。原因不明の病に伏せる姫君錦の前のところへ、許婚である文屋豊秀の家臣粂寺弾正がやって来ます。機知に富んだ弾正は姫君の奇病の仕掛けや悪人たちの策略を見事に解き明かし…。見せ場であるさまざまな見得が決まるごとに、大きな拍手と劇場指定の関係者による小気味良い大向うの声が響き渡ります。曽祖父・十一世團十郎の髷を用いた鬘をつけ、愛嬌ある弾正を見事に演じ切った新之助。歴代の思いを受け継ぐ八代目新之助が、大きな一歩を踏み出した瞬間に、温かな拍手が絶えることなく送られました。
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夜の部は、襲名披露『口上』から始まります。舞台上には十三代目市川團十郎白猿、八代目市川新之助はじめ、團十郎家の色である「柿色」の裃姿の俳優がずらりと並び、幕が開くと同時に客席からも大きな拍手が沸き起こりました。体調不良で休演の白鸚に代わり、初日は左團次による紹介で始まりました。続けて、権十郎、右團次、高麗蔵、幸四郎、猿之助、門之助、男女蔵、齊入が次々と華やかにお祝いの挨拶を述べます。團十郎は「市川宗家の覚悟」を感じさせる真摯な眼差しで、続く新之助は若々しいエネルギーをもって溌溂と挨拶しました。最後には、團十郎がご来場のお客様の無病息災を願い、成田屋の家の芸である「にらみ」を力強く披露し、熱い拍手が鳴り響きました。
成田屋所縁の舞踊『團十郎娘』では、美しく、力自慢で評判の娘・近江のお兼をぼたんが勤めます。歌舞伎座において、歌舞伎の本興行で女性が出し物をするのは、昭和37(1962)年5月の十一代目市川團十郎襲名披露興行の際に三世市川翠扇が同じく『團十郎娘』を勤めて以来、60年ぶりです。花道より馬をひいて琵琶湖のほとりにやってきたお兼は、乙女の恋心を近江八景によせ、長唄に合わせて愛らしく繊細に心情を訴えかけ、観客の心を掴みます。やがてお兼の大力の噂の真偽を確かめようと、右團次、男女蔵ら演じる漁師たちが隠れていた物陰から姿を現し打ちかかりますが、お兼は軽やかにそれをあしらいます。大きな見せ場である“布晒し”では、白く長い晒を華麗に翻す姿に、場内からは万雷の拍手が送られました。
最後の演目は、歌舞伎十八番の内『助六由縁江戸桜』です。裃姿の幸四郎の口上に始まり、聞こえてくるのは粋で軽快な河東節。玉三郎演じる三浦屋揚巻が花道に現れると、場内は一気に華やぎ、一瞬にして吉原の街に。傾城たちが口々に語る江戸一の伊達男への期待が最高潮に達したところで登場するのが、團十郎勤める花川戸助六です。助六が花道に現れると瞬く間に、その洗練された立ち振る舞いと美しい姿に、誰もが視線を奪われます。彌十郎演じる髭の意休をはじめ個性豊かな人物が豪華な吉原の街に次々と登場し、助六と勘九郎演じる白酒売新兵衛に姿を変えた兄の十郎が、喧嘩を売った相手に自らの股の下をくぐらせる件では、思わずくすりと笑いがこぼれます。猿之助演じる通人里暁が新團十郎とのエピソードを繰り出して、さらに笑顔を誘いました。師走の忙しさを忘れる、襲名披露興行に相応しい華やかなひとときとなりました。
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歌舞伎座「十二月大歌舞伎」は26日(月)までの公演。チケットは、チケットWeb松竹、チケットホン松竹で販売中です。